海外事業戦略の策定~仮説立案編:賢者の盲点とバリューチェーン分析、STP分析『中小企業のための海外ビジネス成功完全マニュアル』Vol.2

海外市場を目指す中小企業の皆さま、海外進出の成功に必要不可欠なものは「勝てる戦略」です。本シリーズ第2弾では、海外進出を成功させるための具体的な戦略策定方法を、Aさんのケーススタディを通じて徹底解説します。
中小企業の現場を良く知る中小企業診断士が提案する「賢者の盲点」を突いた戦略的プライシングや、バリューチェーン分析、STP分析など、実践的なフレームワークを詳しく紹介します。海外進出の初期段階で重要な意思決定や準備に役立つ内容が満載です。
「海外進出、どう進めたらいいかわからない」「海外進出したが、現地で課題に直面している」という方、ぜひ本記事を手がかりに、次なるステップを明確にしてください。全12回シリーズを通じて、海外ビジネスの成功に向けた“完全マニュアル”をお届けします。あなたの挑戦を、私たちがサポートします!
なお、本シリーズ「中小企業のための海外ビジネス成功完全マニュアル」は全12回の連載です。初回「よくある失敗事例から学ぶ」を皮切りに、戦略策定の基礎から具体的な行動計画、展示会活用術、海外営業、資金調達ノウハウまで幅広くカバーします。次回以降も、海外進出を成功させるための情報を順次公開予定です。以下、全12回の予定タイトルとなります。是非、ご覧ください。
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<シリーズ:中小企業のための海外ビジネス成功完全マニュアル>
シリーズ1 海外事業戦略の重要性「よくある失敗事例から学ぶ」
https://www.digima-japan.com/knowhow/world/expert-southpoint-00002.php
▶シリーズ2 海外進出戦略作りの具体例とその手法
(↑ 本記事)
(以下、続々公開予定)
シリーズ3 海外事業戦略の策定とフレームワークの使い方
シリーズ4 事業化可能性調査① デスクリサーチの進め方
シリーズ5 事業化可能性調査② フィールドワークのノウハウ
シリーズ6 アクションプランを作成し、海外に飛び立とう
シリーズ7 海外展示会へ出展しよう① 海外展示会の選び方と事前準備
シリーズ8 海外展示会へ出展しよう② 展示会出展のノウハウとフォローアップ
シリーズ9 海外営業の進め方 成約のためのノウハウ
シリーズ10 海外営業の進め方 ECサイトやDXツールの活用
シリーズ11 契約と与信、代金回収~海外ビジネスで会社を潰さない
シリーズ12 社長、お金がありません!?資金調達のノウハウ
★【最新版】補助金についても解説しています★
海外進出のための補助金情報 (令和6年補正もの補助グローバル枠対応)
https://www.digima-japan.com/knowhow/world/expert-southpoint-00003.php
※本シリーズに登場する企業・人物はあくまで架空のもので、実在の企業・団体とは関係がありません。
▼ 海外事業戦略の策定~仮説立案編:賢者の盲点とバリューチェーン分析、STP分析『中小企業のための海外ビジネス成功完全マニュアル』Vol.2
1.海外進出に明確な「戦略」を持つ
さて、シリーズ1にご登場いただいた、海外進出に悶々とした思いを抱いているAさん、正月休みは暖かい沖縄で過ごすことにしました。Aさんは一人だけ沖縄旅行を1日延長し、那覇にある海外進出支援を専門とする中小企業診断士事務所のS社へご相談にお越しになりました。
事務所の代表Y診断士がお話を伺っていると、Aさんの会社が抱える問題が浮き彫りになり、その解決のために海外進出を計画していたようですが、海外進出に明確な戦略がないことが見えてきました。そこで、Y診断士は「今日のご相談を伺っただけですが、A社長、海外進出に明確な戦略はありますか。もしなければあくまで仮説としてご提案させていただきますが・・・」ということで、海外事業戦略の立案について以下のようなアドバイスをしました。
2.「賢者の盲点」を突く戦略的プライシング
製造業の支援経験が豊富なY診断士は、まずAさんに生産余力と固定費について尋ね、Aさんの工場は省力化が進んでいること、生産余力があり増産可能であること、増産しても固定費はほとんど増えない、ことを突き止めました。
そこで、海外市場浸透のために、一時的に「戦略的な値付け」をすることを提案しました。具体的には原価計算を一度やり直した上で、思い切って限界利益ギリギリいっぱいの卸売価格を設定するというものです。これにより「日本の老舗」の「高品質な商品」を「手の届く価格」で販売するという戦略で競争に臨むというものです。
日本の老舗の商品を安く売るなんてとんでもないとお感じになる方もいらっしゃると思いますが、海外に一歩出て見れば、世界各地の商品やサービスとの熾烈な競争が待っています。ライバルとのグローバル競争に勝ち抜かなければ販路開拓は成功しません。「日本の老舗」というフワっとした概念だけでは、評価してもらえない、高く買ってもらえないのが現実です。
しかし、アジア市場は多くの国と地域で、物価も一人当たりGDPも毎年数%上昇しています。最初に安く入ったとしても、いずれ値上げするチャンスは必ずやって来ます。そこから、Y診断士はまずは市場に入り込み、お客さまへ品質や付加価値を理解してもらうことを狙い、徐々に値上げすることで、長期的視点で利益を確保できるようにするべきことを優先したわけです。
3.「バリューチェーン分析」と代理店発掘営業
Y診断士の次のアドバイスは、バリューチェーン分析に基づくものです。製品を日本から輸出するのであれば、生産に関しては今のところ大きな問題はなさそうですから、売れるようになれば生産余力を存分に生かせる、しかし、物流については、海外へ海上輸送で出荷する時間を考えると賞味期限が少し短そうですから、海外向けは賞味期限をあと2~3か月伸ばせるように商品を改良すべきことも併せてアドバイスしました。
Aさんの会社のもう一つの強みである販売やマーケティングについては、海外で同じことをするのは人材の量と質を見ると今はどうも難しそうですから、現地での営業やマーケティングは、第三者からの紹介や展示会や商談会等で信頼できる代理店を探す、つまり「代理店発掘営業」をするのがよいだろうというアドバイスを行いました。
効率的に代理店候補を発掘するためには、英語や中国語をはじめとした多言語のカタログ、ウェブサイトなどを準備し、代理店向けの価格表や契約書のひな形等、商談をスムーズにできる準備をしておくべきだろうとアドバイスを行いました。
4.「STP分析」とF/Sの実施
事業化可能性調査(F/S)を実施し、一次データを収集することで、それにより確度の高いSTP分析をすることを提案しました。Y診断士は、既存の統計や資料などの二次データを整理収集することで、ターゲットになる市場と消費者をアドバイスすることもできそうだと考えましたが、それではちょっと確度が足らないように思われたので、実際のお客様の声を聴く調査を実施するべきだと考えた提案を行いました。
具体的にはAさんの会社の商品がインバウンド観光客に好評だということであれば、地元の大手スーパーのX島店さんにに協力していただいて、Aさんの会社の商品に関するレシートデータと決済データの開示と、店舗観察を兼ねた販促イベントの実施を提案しました。
もしレシートデータが開示してもらえるのであれば、いつどんな商品と一緒に購買されたのか、決済データがあれば決済に利用されたクレジットカードの発行国からどの国の消費者に売れたのかがわかります。
さらに、観光客が来る時間を狙って、X島店で販促イベントができるのであれば顧客観察と貴社の商品の販売促進が同時にでき、ターゲットになりそうな顧客が具体化していきます。結果として売上が上がるのであれば、量販店さんにとっても悪い話ではありません。
なぜY診断士はこれらのようなアドバイスをしたのか、その理由を解説していきます。
5.海外でも売れるストーリーを作るための仮説立案と分析手法
全体として、Y診断士の狙いは「Aさんの商品が海外でも売れるストーリーを作るには、魅力のある価格で『賢者の盲点』を狙うことを軸に、バリューチェーン分析でAさん自社の強みと弱みを把握、強みを生かしながら弱みを集中的に支援、STP分析でマーケティングターゲットを絞り込んで、一点突破で状況を打破する必要がある」と考えました。それぞれ、より具体的になぜそう考えたかを見ていきましょう。
①「賢者の盲点」を狙う海外事業~あえて「赤字」でも海外をやる理由
「賢者の盲点」とは、あえて部分的には一見不合理な戦略をとることで、全体としては他社の追随を許さない地位を確立する競争戦略の考え方があります。
海外進出であれば、海外進出で十分な利益を上げ、会社全体も業績を向上するような企業戦略が本来は望ましい「賢者」の戦略といえるものでしょう。しかし、部分的にも全体にも合理的な戦略は、誰しもが思いつく”優等生的”戦略であり、ライバルに模倣されやすく、競争優位を失いやすい戦略でもあります。もし有力なライバルに模倣されると、賢者の戦略は部分的には合理的でも、全体としては非合理な「合理的な愚か者」の戦略に転落してしまいます。
その逆に、非合理な戦略は誰も取りたがらない「愚か者」の戦略です。海外進出は、多くの場合初期投資に多額の費用がかかるのに、リスクが高い非合理な戦略に見えることがあります。しかし、部分的には非合理だが、全体として合理的であるという優等生が思いつかない戦略が取れるのであれば、ライバルが模倣しづらい独自のポジションを獲得できます。このような戦略を「賢者の盲点」といいます。
もし、海外進出に、ブランド力の向上や、操業率の改善、市場の先取り等、販路開拓以上意味が見いだせ、企業のストーリーとして整合性が取れるのであれば、海外進出は業界内で他社の追随が困難な「賢者の盲点」戦略になる可能性を秘めています。
ここから、Aさんの会社の商品は、先発品や代替品もあることから、価格で思い切った戦略を行い市場を確保することが有効そうだと判断、アジアの物価上昇率を考えると後で値上げして取り返せると考えました。
② バリューチェーン分析~A社長の会社の価値はどこにある?
バリューチェーン分析とは、製品が顧客の手に渡るまでに経由する、下記のような企業活動のプロセスごとに「価値(バリュー)」を見いだし、そこでどんな価値が生み出されていて連鎖しているのかを分析することです。これにより、活動ごとに生み出されている価値が明確化され、自社の価値が明らかにされます。逆に弱みも明確化されるためそこを改善・補強することもできます。
バリューチェーン分析については、多くの解説があるので、詳しい説明は省略しますが、海外進出でバリューチェーン分析を活用するポイントは「価値を生み出している活動が、海外でも同じように活動できるか」を見極めることにあります。
具体的に言えば、物流の品質は日本と海外では大きく変わります。人事も雇用に関する法律や慣行、賃金水準等も違ってきます。販売でも、商慣習の違いや優秀な営業担当者確保の可能性等も考える必要があります。もし、自社の強みであるが、海外では同じように動けなさそうであれば、他社に委託する、代理店を見つけるなどの方法も有効でしょう。
ここから、Aさんの場合は、生産には強みがあるが、弱点はマーケティングと販売、マーケティングは当社が支援できそうだが、実際の営業は販売代理店を見つけて委託したほうがよさそうだと判断しました。
③ STP分析~狙い目はどこか?
STP分析は、どの市場のどのような顧客にどのような立ち位置で臨むのかを分析・決定するためのフレームワークで、セグメンテーション(Segmentation)、ターゲティング(Targeting)、ポジショニング(Positioing)の3つの単語の頭文字から名付けられた、マーケティング戦略の基本となるフレームワークです。
これにより、国内市場より大きな海外市場を細分化し、さらにターゲットとなる顧客を選んだ上で、どのようにアプローチし、競合との差別化を図ればよいのかが明確になるため、海外進出計画を立てるときには活用しやすい手法です。
(1)セグメンテーション
セグメンテーションとは、狙うべき市場を細分化することです。海外進出の場合、多くの場合国や地域という地理的要因でセグメンテーションをすることになると思われます。中国やアメリカなどの場合は、もう少し細かく地理的に分けることもできますし、地域をセグメンテーションしたうえで、性別や家族構成、職業や収入、価値観や嗜好、生活習慣などを重ね合わせるとより高度なセグメンテーションができます。
(2)ターゲティング
ターゲティングとはセグメンテーションした市場の中で、より具体的にどの市場を狙いに行くかを明確にすることです。よくある事例としては、年齢と性別でターゲティングをする方法が代表的ですが、より細かく狙いの「切り口」を変えることで、さらに絞り込むこともできますし、商品によってはあえて絞り込まないこともありえます。
(3)ポジショニング
ポジショニングとは、市場における自社の立ち位置を決めることです。ターゲティングで選定した市場の調査を行い、その市場で自社が有利に戦えるポジションを明確にします。この作業ではポジショニングマップといわれる表を作成して分析するのが一般的です。ポジショニングマップとは、2軸のマトリクス図を用意し、X・Y軸に自社と競合で比較したい要素(価格・品質・機能・チャネルなど)を設定し、自社が有利になる立ち位置を考えます。
ここから、確度の高いSTP分析をするには、ちょっとデータが足らなさそうなことと、すでにインバウンド観光客には販売できていることから、分析をする前にデータ集めが必要そうだと判断し、まずは比較的簡単にできそうなデータ集めとして国内で行えるF/Sからと考えました。
さて、Aさんが国内で行ったF/Sの結果はどうなるのか?その上で戦略がどう変わるのか?はシリーズ4・5で説明します。乞うご期待です。
海外事業戦略の策定・実行なら「サウスポイント」にお任せ下さい!
あなたの会社の「海外事業戦略」は大丈夫ですか?ここまで海外事業戦略の作り方を具体的なフレームワークに沿って解説しましたが、皆さんの会社には明確な「海外事業戦略」はありますか?
記事を読んで「うちの会社の海外進出計画、全く戦略なんてないけど・・・」と「うちあたい(※)」した方も少なくないのでは?
※「うちあたい」とは、当社のある沖縄の方言で「心当たりがあってギクッとしたこと」を指します
私たち、合同会社サウスポイントは、アジアに地理的・文化的に近い沖縄(那覇・石垣)を拠点に、沖縄の優位性を活かしながら、沖縄・日本全国の企業の海外展開を支援しています。加えて本稿で解説している「中小企業の海外事業戦略策定のご支援」については、沖縄にいらっしゃってリアルのご相談、オンラインでのご相談を承っております。
〝うちあたい〟してしまった企業の皆さま、冬でも暖かい沖縄・アジアの窓口沖縄でリフレッシュして頭を柔らかくして気力・体力を充実させた上で「サウスポイント」までご相談ください。
Aさんの会社と製品について、どんな事業化可能性調査(F/S)をしたのか、そしてF/Sをした結果どうなり、どう分析するのか?はシリーズ4・5でご紹介します。
※本シリーズに登場する企業・人物はあくまで架空のもので、実在の企業・団体とは関係がありません。
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