インドネシアのニッケル・EV電池視察|IMIP・IWIP・KIPI 3つの工業団地の違いと選び方
ニッケルの世界シェア(採掘)66.7%をインドネシア1カ国が占め、2020年比で36.3ポイント上昇した──ジェトロが2026年8月に公表した特集レポートは、ニッケルの供給がインドネシアに集中している実態を示しています。
海外進出白書(2025-2026年版)でもインドネシアは相談件数ベースの進出先ランキングで8位(5.5%)にとどまりますが、製造業比率は31%と全進出先中で最も高くなっています。
ニッケル・EV電池部素材の分野で、日本企業がこの一極集中構造にどう向き合うかを考えるなら、統計だけでなく現地の工業団地を実際に見て、発注構造とテナントの実像を確認する必要があります。
本記事では、性格の異なる3つの視察先(IMIP・IWIP・KIPI)を比較したうえで、実際にどう回り、何を確認すべきかを解説します。
この記事でわかること
- ・ニッケル世界シェア66.7%の実態と、2020年のニッケル鉱石輸出禁止以降の動き
- ・IMIP(モロワリ)・IWIP(ウェダベイ)・KIPI(カリマンタン)、3つの視察先をどう比較し、何を確認すべきか
- ・3拠点を視察する際に、渡航前後で確認しておきたい点と、費用の目安として使える海外進出白書のデータ
▼目次
1. インドネシアのニッケル・EV電池の視察先|IMIP・IWIP・KIPIの性格の違い

インドネシアのニッケル・EV電池部素材視察では、まず訪問先候補であるIMIP・IWIP・KIPIの性格の違いを押さえておくことが欠かせません。3拠点は、所在地も、公式サイトや報道が示す位置づけも異なるため、どこを見るべきかは自社がどの工程に関わりたいかによって変わります。
IMIP・IWIP・KIPIの位置づけ
IMIPは公式サイトでステンレス・カーボンスチール・EV電池の3クラスターと50社超のテナントを掲げる団地です。IWIPは公式サイトで「インドネシア初の、鉱物製錬を担う統合型工業団地」とされ、EV電池部材も生産する団地です。KIPIは、2023年2月の大統領視察時に、水力発電を電源とする「世界最大のグリーン工業団地」として構想が語られた団地です。
出典:PT Indonesia Morowali Industrial Park公式サイト、PT Indonesia Weda Bay Industrial Park公式サイト、ANTARA News Kaltara「Presiden yakin kawasan KIPI Kaltara jadi masa depan industri energi hijau Indonesia」(2023年2月28日)
3つの工業団地の比較
3つの視察先を、種別、所在地、公式サイトや報道の記載、視察前に確認したい点で並べます。出典は表の下に示します。
| 比較軸 | IMIP(モロワリ工業団地) | IWIP(ウェダベイ工業団地) | KIPI(カリマンタン工業団地) |
|---|---|---|---|
| 拠点の種別 | 複合工業団地(ステンレス・カーボンスチール・EV電池の3クラスター) | 統合型工業団地(鉱物製錬、EV電池部材の生産) | グリーン工業団地の構想(EV電池・石油化学・アルミニウムを計画。2023年2月時点) |
| 所在地 | 中部スラウェシ州モロワリ県 | 北マルク州中央ハルマヘラ県ウェダ郡 | 北カリマンタン州ブルンガン県の沿岸部 |
| 集積している産業・企業 | 50社超のテナント(公式サイト掲載) | 青山実業・華友鈷業・振石集団を含む複数の投資家が支援しているとされる(BHRRC。報道ベース) | 2021年12月、ルフット調整大臣が外国企業9社の投資を発言(企業名は報じられていない) |
| 視察前に確認したい点 | クラスターごとに、どの企業がどの工程を担っているか | 入居企業ごとの事業内容、環境対応・廃棄物処理の状況 | 現在の稼働状況と入居企業(2023年の構想からどこまで進んだか) |
出典:PT Indonesia Morowali Industrial Park公式サイト、PT Indonesia Weda Bay Industrial Park公式サイト、Business & Human Rights Resource Centre「PT Indonesia Weda Bay Industrial Park (IWIP)」、Tempo English「Luhut: 9 Foreign Firms to Invest in Tanah Kuning Industrial Zone」(2021年12月3日)、ANTARA News Kaltara「Presiden yakin kawasan KIPI Kaltara jadi masa depan industri energi hijau Indonesia」(2023年2月28日)
2. インドネシアのニッケル供給集中の実態|世界シェア66.7%
インドネシアのニッケルをめぐっては、採掘シェアと精錬済み供給の増加分のどちらでも、インドネシアが大きな割合を占めています。この章では、ジェトロと日本総研の資料から数字を確認し、海外進出白書でのインドネシアの位置づけを示します。
インドネシアのニッケルの世界シェアと供給の増加分
ジェトロが2026年8月6日に公表した特集レポートによると、ニッケルの世界シェア(採掘)はインドネシアが2025年に66.7%で、2020年比で36.3ポイント上昇しました。また同レポートは、2023年から2025年までの精錬済み供給の増加分の4分の3超を、ニッケルではインドネシアが占めたと記しています。
出典:ジェトロ「高まる重要鉱物の供給リスク(世界)」2026年8月6日
2020年1月のニッケル鉱石の輸出禁止
日本総研によると、インドネシアは2020年1月にニッケル鉱石の輸出を禁止しました。
同資料は、2014年に2カ所だったニッケル製錬所が2021年末に16カ所へ増え、中国からの製錬所新設の投資を中心に対内直接投資が増えたとしています。
出典:日本総研「鉱石の輸出禁止を拡大するインドネシア」
海外進出白書に見るインドネシアへの進出相談
海外進出白書(2025-2026年版)の相談件数ベース(4,218件、2025年4月〜2026年3月)では、インドネシアは進出先ランキング8位(5.5%)です。業種別では製造業が31%で、全進出先の中で最も高い比率です。
相談内容は販路拡大が25%で最多で、コンサル9%、市場調査8%、法務8%が続きます。
出典:Digima〜出島〜「海外進出白書(2025-2026年版)」
3. インドネシアのニッケル産業と中国資本|視察前に確認する資本系列
日本総研は、2020年以降の対内直接投資が、中国からの製錬所新設の投資を中心に増えたと述べています。ここでは、視察の前に資本系列を確認する理由と、公開されている情報を整理します。
工業団地の運営会社と入居企業の資本系列
日本総研は、2020年の輸出禁止以降、中国からの製錬所新設の投資を中心に対内直接投資が増えたと整理しています。IMIP・IWIPを視察する場合も、運営会社や入居企業の資本関係を、事前に確認しておく必要があります。
IWIPについて、BHRRCは、青山実業(Tsingshan)・華友鈷業(Huayou)・振石集団(Zhenshi)を含む複数の投資家が支援しているとされると記しています。報道ベースの記述で、出資比率は示されていません。
出典:日本総研「鉱石の輸出禁止を拡大するインドネシア」、Business & Human Rights Resource Centre「PT Indonesia Weda Bay Industrial Park (IWIP)」
中国の対日輸出管理|2026年1月6日の公告
中国商務部は2026年1月6日、日本向けのデュアルユース品目(軍民両用品目)の輸出管理を発表しました(公告2026年第1号)。Greenberg Traurigの解説によれば、対象は日本の軍事関連の最終用途・最終需要者などで、希土類磁石などが対象品目に挙げられています。
調達先を検討する際は、最新の公告と資本系列を合わせて確認してください。
出典:Greenberg Traurig「China Imposes Escalated Export Controls on Dual-Use Items to Japan」
4. IMIP(モロワリ工業団地)|3クラスターを掲げる複合団地
ここでは、IMIPの公式サイトと同社の発表にもとづく情報と、視察時の論点を整理します。
3クラスター・50社超のテナント|9万8,266人の雇用
PT Indonesia Morowali Industrial Park(IMIP)は、公式サイトでステンレス鋼・カーボンスチール・EV電池の3クラスターと、50社超のテナントを掲げています。IMIPの発表によると、2026年8月末時点の雇用者数は9万8,266人で、2020年は3万5,592人でした。
出典:PT Indonesia Morowali Industrial Park公式サイト、IMIP「IMIP Serap 98.266 Tenaga Kerja」2026年9月2日
パル行き直行便の就航|2026年9月3日
IMIPの発表によると、2026年9月3日に、IMIPの国内線空港からパルへの初便が運航されました。この初便はIMIP従業員を乗せた特別チャーター便で、所要時間は約45分と記されています。利用対象としては、従業員、経営陣、取引先、投資家などが挙げられています。
出典:IMIP「Rute Penerbangan IMIP–Palu Resmi Beroperasi」2026年9月3日
IMIPの視察前に整理するクラスターと工程分担
訪問前に、クラスターごとにどの企業がどの工程を担っているかを整理しておくと、訪問先を絞り込みやすくなります。
5. IWIP(ウェダベイ工業団地)|インドネシア初の統合型工業団地
ここでは、IWIPの公式サイトとBHRRCの記載にもとづき、団地の成り立ちと視察時の着眼点を整理します。
IWIPが掲げる「インドネシア初の統合型工業団地」
PT Indonesia Weda Bay Industrial Park(IWIP)は、公式サイトによると、北マルク州中央ハルマヘラ県ウェダ郡レリレフ村に位置し、2018年8月30日に設立されました。同サイトは、鉱物製錬を担うインドネシア初の統合型工業団地で、EV電池部材も生産していると記しています。
出資者について、BHRRCは、青山実業・華友鈷業・振石集団を含む複数の投資家が支援しているとされると記しています。報道ベースの記述です。
出典:PT Indonesia Weda Bay Industrial Park公式サイト、Business & Human Rights Resource Centre「PT Indonesia Weda Bay Industrial Park (IWIP)」
IWIPの視察で直接確認する項目
設備の稼働状況に加えて、環境対応や地域雇用の取り組みも、訪問先に直接確認する項目に加えておくとよいでしょう。
6. KIPI(カリマンタン工業団地)|水力発電を電源とする構想の新設団地
ここでは、2023年2月のANTARA Newsの報道をもとに、構想の内容を整理します。
約1万3,000ヘクタール|水力発電を電源とする「世界最大のグリーン工業団地」構想
Kalimantan Industrial Park Indonesia(KIPI)について、ANTARA Newsは、2023年2月28日の大統領(ジョコ・ウィドド氏、当時)の視察を報じています。同記事によると、大統領は、ブルンガン県のタナクニン〜マンクパディの沿岸部の約1万3,000ヘクタールを、メンタラン川・カヤン川の水力発電などの再生可能エネルギーで稼働させる構想を語り、EV電池、石油化学、アルミニウムの順に産業を挙げました。同記事は、この団地を「世界最大のグリーン工業団地」と表現しています。
出典:ANTARA News Kaltara「Presiden yakin kawasan KIPI Kaltara jadi masa depan industri energi hijau Indonesia」(2023年2月28日)
KIPIへの投資意向の公表
Tempo Englishによると、ルフット調整大臣(当時)は2021年12月、北カリマンタンの工業地区に外国企業9社が投資すると発言しました。同記事は、9社の企業名を示していません。
出典:Tempo English「Luhut: 9 Foreign Firms to Invest in Tanah Kuning Industrial Zone」(2021年12月3日)
KIPIの稼働状況と入居企業の確認
訪問前に、現地の関係機関を通じて、稼働状況と入居企業を確認してください。
7. インドネシア視察の実行計画|回る順番・メンバー・質問

3拠点の情報を整理しても、誰に何を確認し、どう回り、帰国後に何をするかまで決めておかなければ、視察は成果につながりにくくなります。ここでは、視察前後に確認したい6つの項目を示します。
ニッケル・EV電池の発注構造の把握
IMIP・IWIPについては、入居企業ごとに、誰が設備・原料の調達を決めているかを、訪問前に確認します。KIPIについては、外資誘致の窓口がどこかも含めて、現地の関係機関に確認します。
渡航前に棚卸しする自社情報
高温・高圧設備や耐食材料での実績、現地保守拠点の有無、資金調達の方法(JBIC・NEXI等の活用可否)、インドネシア語・中国語での対応可否を、渡航前に一覧化しておきます。提示できる技術的な強みを言語化しておくと、現地での説明がしやすくなります。
視察する工業団地の選び方と移動
IMIP(中部スラウェシ州)・IWIP(北マルク州)・KIPI(北カリマンタン州)は別々の州にあります。何拠点を回るか、各拠点へのアクセス手段と受け入れ日程を確認したうえで決めます。
インドネシア視察のメンバー構成
技術担当(製錬・電池化学に明るい人)、調達・事業開発担当、インドネシア語と鉱業分野の専門用語に対応できる通訳を候補に、目的に合わせて構成します。
3つの工業団地に共通で聞く質問リスト
「原料調達は自社鉱山かサードパーティーか」「精錬能力の増設計画はあるか」「環境規制・廃棄物処理の第三者認証の取得状況」「日系企業との既存取引の有無」を、共通の質問にしておくと比較ができます。「御社の強みは何ですか」のような一般的な質問は、回答が一般論になりやすいため、具体的な項目に分けて尋ねます。
帰国後に決めることと期限
帰国後は、社内で参入の形(供給・提携・投資のいずれか)の一次判定を行い、テナント企業や政府系機関との対話ルートを確定させます。時期の目安は、社内で設定します。
海外進出白書(2025-2026年版)では、海外展開で解決すべき課題として「現地パートナー探し」を挙げた企業は全体で57.0%、海外事業を3年以上継続する「成功企業」では63.5%でした。
出典:Digima〜出島〜「海外進出白書(2025-2026年版)」
▶ 推奨アクション
・インドネシアのオンライン事業許可システム(OSS)で、対象分野の外資規制・許認可要件を確認する
・IWIP公式サイトの問い合わせページから、訪問・問い合わせの窓口を確認する
・IMIP公式サイトの問い合わせページから、訪問申請・問い合わせの窓口を確認する
・視察先の選定や現地パートナー・専門家の紹介をDigima〜出島〜に相談する
8. インドネシア視察のよくある質問
インドネシアのニッケル・EV電池視察を検討する担当者から、視察先の選び方・費用・相談先についてよく聞かれる質問をまとめました。費用は海外進出白書(2025-2026年版)の数字で答えます。
インドネシアのニッケル・EV電池視察は、どの工業団地から見ればよいですか。
3つの工業団地は性格が違います。IMIP(モロワリ工業団地)は3クラスターを掲げる複合団地、IWIP(ウェダベイ工業団地)は統合型工業団地、KIPI(カリマンタン工業団地)は水力発電を電源とする構想の新設団地です。IMIPは中部スラウェシ州、IWIPは北マルク州、KIPIは北カリマンタン州と、それぞれ別の州にあります。何拠点を回るかは、第1章の比較と第7章の確認項目を見て決めてください。
インドネシア視察のインドネシア視察の費用はどのくらいかかりますか。
海外進出白書(2025-2026年版)では、支援サービスの平均単価のうち「海外視察」は84万円でした。
インドネシアのニッケル・EV電池視察の相談は、どこにすればよいですか。
視察先の工業団地の条件は公開資料で確認し、法人設立や契約はインドネシアの専門家に相談します。ニッケル・EV電池の分野では、工業団地ごとに立地や入居条件が異なるため、公開資料で候補を絞ってから専門家に具体を聞くと無駄がありません。Digima〜出島〜では、専門コンシェルジュが内容をヒアリングし、インドネシアでの実績がある支援企業を3〜5社に絞って無料で紹介しています。
9. インドネシアの現地視察はDigima〜出島〜に相談
ニッケルの世界シェア66.7%という数字は、視察先を選ぶ際に押さえておきたい前提です。IMIP・IWIP・KIPIを比較して視察先を絞り込み、資本系列と稼働状況を確認する進め方が考えられます。
Digima〜出島〜では、インドネシアへの進出やニッケル関連産業への参入を検討する企業向けに、現地の専門家やパートナーを無料でご紹介しています。まずは無料の海外進出タイプ診断で、自社に合った進出の進め方を確認してみてください。
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