• このエントリーをはてなブックマークに追加

【2019年版】マレーシア経済の最新状況 | 消費税の廃止は「VISION 2020」を実現させるのか?

掲載日:2019年10月18日

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

マレーシア経済の最新状況を、基本情報およびこれまでの経済政策の歴史も含めて、話題となった「消費税廃止」以降の2019年以降の未来と課題についても詳しく解説します。

13の州と3つの連邦特別区からなるマレーシア。その人口は3,200万人で、マレー系・中華系・インド系に加えて様々な先住民族が生活する多民族国家として知られています。

1981年に第4代首相となったマハティールによる外貨導入政策や、重工業化戦略による工業開発によって、現在の電機・電子産業を中心とする工業化による経済成長を達成。2019年4〜6月の実質GDP成長率は前年比の4.9%。前期の4.5%と比較しても加速しており、世界経済全体がピークアウトを迎えつつある現在、この伸び率はたとえわずかであっても着目すべき数字であると言えるでしょう。

2018年6月にはGST(物品サービス税=消費税)に変わってSST(売上・サービス税)を再導入するという「消費税の廃止」を実現しています。

1991年に発表した30年後の未来像を標榜した「VISION 2020」で掲げている〝2020年までに先進国入りを果たす〟という目標実現に向けて発展を続けているマレーシア経済の最新状況を考察していきます。

1. マレーシア経済の最新事情【2019年版】

世界経済が後退する中で、GDP成長率がアップ

マレーシアの2019年第2四半期(4〜6月)の実質GDP成長率は、前年比で4.9%でした。前期の4.5%と比較しても加速しており、この伸び率は着目すべき数字であると言えます。

なぜなら、さる10月15日、IMFは、2019年の世界経済見通し(WEO)の成長率を、5期連続の下方修正となる3.0%と予測しており、このような〝世界経済の減速による負の連鎖〟は、輸出国とされるマレーシアにとっては避けることができないとされていたからです。しかし、先述のような伸び率を記録できたことは、マレーシア経済の伸びしろが(ひとまずは※)証明されたと言ってよいでしょう。

今回のGDP成長率の要因としては、堅調な個人消費と純輸出が押し上げたとされています。個人消費は前期の7.6%増から7.8%増の微増。民間投資は前期の0.4%増から1.8%増に拡大し、内需成長を押し上げました。

気になる輸出については、前期から変わらぬ0.1%増でしたが、輸入が2.1%減と前期からさらに減速。その結果、純輸出が22.9%増となり、今回のGDP成長に寄与しました。

※2017年のマレーシアの実質GDP成長率は5.7%増。続く2018年は4.7%増。米中貿易摩擦の影響もあり、2019年も5%を割る成長率と予測されているため、今回の伸び率は、決して楽観視できる数字ではないという意味での〝ひとまずは〟とさせていただきます

2. マレーシア経済の基本情報とこれまでの歴史

マレーシア経済の基本情報

このセクションでは、マレーシア経済の基本情報と、その歴史について解説します。

まずはマレーシア経済の基本情報を下記にまとめたのでご覧ください。

マレーシア経済

※外務省 「マレーシア(Malaysia)基礎データ」より抜粋

マレーシア経済のこれまでの歴史

続いてはマレーシア経済の歴史について見ていきます。1957年にイギリスから独立して以来、マレーシア経済は、天然ガスやゴム・パーム油といった豊かな天然資源を活かしながら、農業を中心に発展してきました。

1970年代前後になると、政府主導のもと工業化を促進。おもに電機・電子産業を中核としながら製造業を大きく発展させ、経済発展を遂げることに成功したのです。

1980年代になると、マハティール首相(当時)による外貨導入政策や、重工業化戦略による工業開発が進められます。その結果、電機・電子産業を中心とする工業化による経済成長を達成しました。

1991年には、マレーシアの30年後の未来像を標榜した「VISION 2020」を発表。その間も、民族間の経済格差や、1997年のアジア通貨危機、さらには2008年の世界金融危機を乗り越えながら、2020年までの先進国入りの目標実現に向けて、自国の経済を発展させています。

3. 近年のマレーシアの経済状況

ここ数年のマレーシア経済の傾向

近年のマレーシア経済は、平均4〜6%の安定した経済成長を続けてきました。2011年には「 1人当たり国内総生産(GDP)」が 1 万ドル(同年の 対ドル平均為替レート換算で約111万円)を越えており、世界銀行が定義する上位中所得国(※)として位置づけられています。

マレーシアの人口は3,200万人(2017年 マレーシア政府統計)となっており、隣国のタイやインドネシアと比較しても少ないものの、ASEAN 5(インドネシア、マレーシア、フィリピン、タイ、ベトナム)の中では、もっとも経済的に成功した国とされています。

事実、1995年の時点で4,132ドルだったマレーシアの1人当たりのGNI(国民総所得)はすでに1万ドルを超えています。ASEAN全体の中でも、シンガポールやブルネイに次ぐGDPを誇っており、安定した経済成長を続けているとされています。

※世界銀行による分類によると、発展途上国は「低所得国」「下位中所得国」「上位中所得国」の3つに区分されている。低所得国はGNIが1,005米ドル(約11万円)以下の国、下位中所得国は1,006米ドルから3,955米ドル(約43万5,000円)までの国、上位中所得国は3,996米ドルから12,235米ドル(約134万5,000円)までの国とされている

マレーシア独自の開発独裁体制とは?

そのような成功を収めた最大の要因は、マレーシア独自の「開発独裁体制」とされています。

具体的には…例えば、アジア通貨危機の際は、低金利、財政出動、国際資本規制によってIMFの介入を回避することで、素早く高成長へと復帰できたことが挙げられます。また、いわゆる〝輸出に頼る経済成長〟の限界に直面した際は、サービス業における外資規制の緩和、さらにはITインフラの整備などを行い、内需主導型成長への転換を成功させました。

マレーシア独自の長期的な開発独裁体制

そのような経済政策が成功した背景に、先述した、マレーシアならではの長期視点に立った開発独裁体制があります。

もともと、開発独裁体制とは、マレーシアに限ったものではなく、第二次大戦後のアジア新興国の発展の多くが、それぞれの開発独裁体制によって成し遂げられたものでした。ただ、マレーシアのそれは他国とは異なり、その独自の長期的視野が功を奏したとされています。

具体的には、マレーシアの独裁体制には「民族対立を表面化させない」という国民全体が共有する価値観が伴っていました。後述しますが、そもそもマレーシアには建国当初から、人口の7割を占めるマレー人の多くが貧困層であるのに対して、少数派の華人が比較的に裕福であるという深刻な民族間の格差構造が存在していました。

そのような状況の中で、マレーシア政府は必然的に民族間格差の是正という目的を掲げてすべての政策を実行することとなりました。したがって、それらの政策の全てが長期的な視野に基づくこととなり、マレーシアの開発独裁体制も独自の長期的なものとならざるを得なかったのです。

その結果、自ずとマレーシアの経済政策は、近隣諸国のそれと比べて長期に渡って安定的に運営されることとなったのでした。

4. これまでのマレーシアの経済政策

このセクションでは、前項で解説した、その独自の開発独裁体制の下で実施された、マレーシアの代表的な経済政策について解説します。

ブミプトラ政策

ブミプトラとはマレー語で「土地の子」(マレー系住民と先住民)を意味します。ブミプトラ政策とは、1971年から実施された、そんなマレー人の経済的地位の向上を目的とした〝マレー人の優遇政策〟です。

先述のように、その建国当初から、その人口の7割を占めるマレー人の多くが貧困層に対して、少数派の華人が比較的に裕福であるという格差構造を抱えていたマレーシアでは、それが国内の民族間対立の大きな要因となっていました。

ブミプトラ政策が実際された結果、マレー人は教育、雇用、許認可、融資といった様々な分野で優遇措置を受けられるようになりました。さらに1981年に「マレー人の復権」を叫ぶマハティールが首相に就任した後に、政策はさらに強化されます。後述するマハティールによる「東方政策(ルックイースト政策)」はその一環として提唱されています。

東方政策(ルックイースト政策)

1981年に第4代首相となったマハティールは、日本や韓国の近代化に学ぶという「東方政策(ルックイースト政策)」を掲げました。その中には、重工業化戦略の採用といった更なる工業開発の促進が含まれており、公営ではなく民間主導の経済システムの構築を目指すと同時に、積極的な外貨の導入も推進されました。

また、先述の「ブミプトラ政策」の一環でもあったため、数多くのマレー人が留学生や研修生として日本に派遣され、その結果、マレー人のビジネスエリートや中産階級が誕生しました。しかし、華人やインド人の中下層からの批判も大きくなり、現在にいたるまで、国内の非マレー社会から政策の見直しを求める声も高まることとなりました。

ただ、この「東方政策(ルックイースト政策)」によって、これまでのパーム油や天然ゴムなどの一次産品が中心だった輸出構造が、海外からの製造業の進出が促進されたこともあり、現在の工業製品の比重が高い構造へと変化したことは、マレーシア経済にとって極めて重要な事実であることは間違いありません。

VISION 2020(ビジョン2020)

民族間格差が叫ばれる中、1990年の総選挙に勝利したマハティール政権は、翌1991年に、マレーシアの30年に渡る展望が明記された「VISION 2020(ビジョン2020)」を発表しました。

このビジョンは、2020年までに、経済・政治・社会・精神・文化などのあらゆる側面において〝先進国の仲間入りをする〟ことを目標とするものです。今後30年の国家経営を規定する基本方針であると同時に、その中でもマレーシア国民の統合を最重要課題としています。

経済的には、1991年以降の30年間において年平均GDP成長率7%を達成視、8倍の所得水準を実現することを掲げています。

5. マレーシア経済の産業構造

マレーシア経済の経済・産業の特徴

これまで説明してきたように、マレーシアはASEAN主要国の中でも、もっとも工業化が発展した国のひとつです。産業別GDP構成比においても、工業の占める割合は、近年は低下傾向にあるものの、依然として約4割を占めています。

第一次マハティール政権当時から、外資系企業を積極的に受け入れてきた背景もあり、エレクトロニクス製品、鉱物資源やその加工品に加えて、天然ゴム・パームオイルなどの農産物などの輸出が盛んな、輸出大国としても知られています。

また、外資規制の緩和や外国人観光客の増加にともなって、近年はサービス産業の割合が上昇しています。

マレーシア経済における「輸出構造」

輸出内訳としては、電子・電気機械などのエレクトロニクス製品が輸出全体の3分の1以上を占めています。さらに、半導体産業が輸出の牽引役となっています。

また国別輸出内訳としては、香港・シンガポール、ASEAN、中国、EUの順に輸出が多いとされています。

マレーシア経済における「輸入構造」

輸入内訳としては、輸出と同様に電子・電気機械などのエレクトロニクス製品の比率が3割となっています。その背景には、現在のマレーシアが電子機械製品の世界的なサプライチューンとして重要な位置付けにあることが挙げられます。

また国別輸入内訳としては、これも輸出同様に、中国、ASEAN、香港・シンガポール、EUで半分以上を占めています。

6. マハティール政権による消費税廃止政策の最新状況

マハティール新政権によって消費税(GST)が廃止

2018年5月9日、マレーシア連邦下院選が開票され、消費税廃止を掲げたマハティールが率いる希望連盟が勝利し、翌6月より消費税(以下GST=Goods and Services Tax /物品サービス税 /)が事実上廃止されました。

2018年6月にはGST(物品サービス税=消費税)に変わってSST(=Sales and Services tax / 売上税とサービス税)が再導入されました。

SST(「売上税」と「サービス税」)とは消費税(GST)とは違い、課税の対象から生活必需品などを除外したもので、「売上税」の税率は品目によって5%か10%でメーカーなどの製造業者に課税。「サービス税」は税率6%でサービス提供事業者に課税される仕組みを持っています。

民間消費が好調なのは消費税廃止が要因ではない…?

冒頭で述べたように、マレーシアの民間消費は堅調ですが、長期的に見ると、その民間消費はマレーシアならではの良好な人口動態に支えられていると言ってよく、単純にGSTからSSTへの移行が要因とは言えません。

また現在のマレーシア経済はやや減速気味であることは否定できません。GST(消費税)を廃止したことで、安定財源は縮小し、新たに導入したSST(売上・サービス税)では充分な消費税収を穴埋めできていない状態でもあります。

歳入においても、国営石油会社ペトロナスの特別配当に頼っているのが現状であり、通常配当を含めた石油関連収入への依存度が高まっていることが懸念されます。事実、ナジブ前政権では15%だった石油関連収入の依存度は約30%まで逆戻りしてしまったとの指摘もあるほどです。

マハティール首相がGST再導入の可能性について言及

そんな中、さる10月3日に、マハティール首相は、国民が望むならば、再びGST(物品・サービス税)の再導入に向けて検討すると発言したことが話題となっています。

事実、マレーシアの産業界からは、現状のSST(売上・サービス税)からGST への回帰を希望する声も上がっています。ただ、従来のGSTをそのまま復活させるのでははく、6%から3%へ税率を引き下げ、すべての生活必需品・サービスをゼロ税率にするなどの提案もあり、いまだ予断を許さない状況ではあります。

参照:「マハティール首相、GST再導入に向けた検討の可能性示唆 (マレーシア)」JETRO ビジネス短信

7. マレーシア経済の未来と今後の課題

中進国の罠に陥ったポピュリズム国家…?

最後のセクションでは、マレーシア経済の未来と今後の課題について考察していきます。

現在、すでにマレーシアは所得水準も上昇しており、「VISION2020」で標榜している通り、経済全体が先進国レベルへと近づきつつあります。すでに従来型産業による経済成長の持続は望めず、今後は産業の高度化および多角化が大きな課題となっています。

また、すでにいわゆる〝中進国の罠〟(※)に陥ってる傾向もあり、他国にはない強みを持つ産業がないと、人口的にも経済規模的にもスケールメリットを発揮することは難しいでしょう。

もちろん、その事実にマレーシア政府も自覚的であり、マレーシア工業開発庁は、再生可能エネルギーなどの分野で外資誘致を積極的に促進しています。また、世界で急成長しているイスラム関連ビジネスにおける注目分野である「イスラム金融」や「ハラル食品」にも着目しています。

グローバル・イスラム・ファイナンスセンターとして総合的なシステムおよびサービスの提供を目指すと同時に、マレーシア政府直轄のハラル認証機関のプレゼンスをアナウンスするなど、イスラム関連ビジネスにおける成長も期待されています。

また、近年のマレーシアでは、他の経済低迷国と同様に、ポピュリズムへの傾倒も懸念されています。事実、カリスマ性が強いマハティール首相による「消費税廃止」の政策は、バラマキ政策との指摘もあります。そういう意味でも、マハティール首相に続く次期首相と目されている、アンワル・イブラヒム氏の経済政策がいかなるものになるかが注目されています。

※中進国の罠:新興国が低賃金の労働力を原動力とし中所得国の仲間入りを果たした後に、自国の人件費の上昇や後発新興国の追い上げ、先進国との次世代型産業の格差などによって、経済成長が停滞する現象を指す

7. 優良なマレーシア進出サポート企業をご紹介

御社にピッタリのマレーシア進出サポート企業をご紹介します

今回はマレーシア経済の最新事情について解説しました。

もともとマレーシアは親日国家として知られており、日本人が移住したい国ランキングで13年連続トップというデータも存在します。マハティール首相およびマレーシア政府が、かつての「ルックイースト政策」のように、日本企業からのさらなる投資に期待していることは心に留めておいていただければと思います。

「Digima〜出島〜」には、厳選な審査を通過した優良なマレーシア進出サポート企業が多数登録しています。当然、複数の企業の比較検討も可能です。

「マレーシア進出の戦略についてサポートしてほしい」「マレーシアでの事業計画立案のアドバイスがほしい」「マレーシアに進出したいが何から始めていいのかわからない」…といった、多岐に渡るマレーシア進出におけるご質問・ご相談を承っています。

ご連絡をいただければ、海外進出専門コンシェルジュが、御社にピッタリのマレーシア進出サポート企業をご紹介いたします。まずはお気軽にご相談ください。

失敗しないマレーシア進出のために…!
最適サポート企業を無料紹介

カンタン15秒!無料相談はこちら

(参照文献)
・外務省「マレーシア(Malaysia)基礎データ
・(一財)自治体国際化協会 シンガポール事務所 「2020 年までの先進国入りを目指す マレーシアの経済産業政策の歩み
・三菱UFJリサーチ&コンサルティング「マレーシア経済の現状と今後の展望
・日本総研「曲がり角にあるマレーシアの経済政策運営

(当コンテンツの情報について)
当コンテンツを掲載するにあたって、その情報および内容には細心の注意を払っておりますが、掲載情報の安全性、合法性、正確性、最新性などについて保証するものではないことをご了承ください。本コンテンツの御利用により、万一ご利用者様および第三者にトラブルや損失・損害が発生したとしても、当社は一切責任を負わないものとさせていただきます。
海外ビジネスに関する情報につきましては、当サイトに掲載の海外進出支援の専門家の方々に直接お問い合わせ頂ければ幸いです。

この記事を書いた人

SukegawaTakashi

助川 貴

株式会社Resorz

「Digima〜出島〜」編集部・コンテンツディレクター。 雑誌編集・書籍編集・WEB編集を経て現職。 これまでに、アメリカ・イギリス・インド・中国・香港・台湾・ベトナム・ミャンマー・カンボジア・マレーシア・シンガポール・インドネシア・エジプトなどの国・地域へ渡航。趣味は、音楽・スノーボード・サーフィン・ドローンほか。

この記事が役に立つ!と思った方はシェア

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

海外進出のオススメサポート企業

メルマガ登録して、お得な情報をGETしよう

いいね!して、最新注目記事を受け取ろう