ベトナム半導体の視察3拠点|NIC Hoa Lac・Amkorバクニン・サイゴンハイテクパークで何を見るか
ベトナムへの進出相談は、いま慎重な見極めの段階に入っています。「海外進出白書(2025-2026年版)」によると、日本企業の海外進出相談先としてのベトナムのシェアは、前年の2位(約8%)から2026年版では7位(6.0%)へ後退しました。
一方で、半導体に関わる拠点づくりは着実に進んでいます。米Amkor Technologyは北部バクニン省で総投資額16億ドル規模の後工程(OSAT。完成した半導体を組み立て、検査する工程)工場を2023年10月に開所しました。南部のサイゴンハイテクパークでは、2025年の生産額が約230億ドルと推計されています。政府系の国家イノベーションセンター(NIC)は、ハノイ近郊のホアラック・ハイテクパークにチップ設計の拠点を開きました。
本記事では、性格がまったく異なる3つの視察先——①政府系の研究・人材育成施設「NIC Hoa Lac」、②外資が実際に量産する後工程工場「Amkorベトナム(バクニン省)」、③大手から中小まで集積する南部の「サイゴンハイテクパーク(SHTP)」——を比較し、サプライヤーとして参入する現実的なルートと、視察の実行計画までを解説します。
この記事でわかること
- ・ベトナム全体の進出相談が減速するなかで、半導体の拠点づくりがどこまで進んでいるか
- ・NIC Hoa Lac/Amkorバクニン/サイゴンハイテクパーク、3拠点の性格の違いと向いている企業
- ・「設計」「量産」「集積」という3つの異なる場面で、それぞれ何を確認すべきか
- ・3拠点をどう回るか、視察の実行計画(商流の見極めから帰国後の動きまで)
▼目次
1. ベトナム半導体の現在地|相談は減速し拠点づくりは進行

ベトナムへの進出相談は減速している一方で、半導体の拠点づくりは進んでいます。相談動向を示す海外進出白書の数字と、政府が掲げる半導体人材の育成計画を確認します。
進出相談は2位から7位へ後退している
「海外進出白書(2025-2026年版)」によると、日本企業の海外進出相談先としてのベトナムのシェアは、前年の2位(約8%)から2026年版では7位(6.0%)へ後退しました。業種別では卸売小売が40%、製造が26%を占めます。相談内容は「市場調査10%+コンサル8%」が中心で、進出の可否を慎重に見極める段階に入っていることがうかがえます。
ただし、この数字はベトナム全体の傾向です。半導体に限った相談動向を示すものではない点にご注意ください。
出典:Digima〜出島〜「海外進出白書(2025-2026年版)」
政府は半導体人材を2030年までに5万人育成する計画を掲げている
2024年9月、ベトナム政府は首相決定1017号・1018号で半導体産業の発展戦略を定め、前工程(ウエハーに回路を作り込む工程)と後工程を含む半導体人材を、2030年までに5万人、2040年までに10万人育成する計画を示しました。
この目標は、企業にとって追い風であると同時に、現在の供給不足を示すものでもあります。九州半導体人材育成等コンソーシアムが2025年2月にハノイへ派遣したスタディーミッションの報告では、在九州企業への調査から推計した半導体人材の不足規模が、この先数年で約1,000人単位に上るとされています。日本国内でも人材が足りないなかで、ベトナムの育成目標をどう使えるかを見極めることが、視察の目的の一つになります。
出典:ジェトロ「九州半導体人材育成等コンソーシアム、ベトナムにミッション派遣」(2025年3月)
2. 3拠点の比較|「設計」「量産」「集積」で見るべきものが違う

NIC Hoa Lac、Amkorバクニン、サイゴンハイテクパークは、拠点としての性格がまったく違います。3拠点を同じ軸で比べ、自社がどこに関わるべきかを判断する材料にします。
同じ「半導体視察」でも行く場所で得られる情報が変わる
ベトナムの半導体拠点は、①政府主導でチップ設計と人材育成を担う研究施設、②外資が実際にクリーンルームで量産する後工程工場、③大手から中小まで集まる国家ハイテクパーク、という3つの異なる性格を持ちます。「半導体を見に行く」という括りだけで視察先を決めると、設計拠点を見ただけで量産の実態を語ってしまう、といった食い違いが起きます。
まず自社が、半導体の工程のどこに関わりたいのかを整理してから視察先を選んでください。
3つの視察先の比較|種別・向く企業・見る点
| 比較軸 | NIC Hoa Lac | Amkorベトナム(バクニン省) | サイゴンハイテクパーク(SHTP) |
|---|---|---|---|
| 拠点の種別 | 政府系施設(国家イノベーションセンター内のチップ設計拠点) | 工業団地内の民間量産工場(後工程=組立・検査) | 国家ハイテクパーク(913ヘクタールの広域エリア) |
| 向いている企業 | 設計ソフト、大学連携、人材育成で参入したい企業 | クリーンルーム建設、検査装置、特殊ガス・薬液などの量産サプライヤー | 集積地のなかで取引先・パートナーを探す企業、生産拠点を検討する企業 |
| 集積している企業 | Synopsysなどが協業するチップ設計インキュベーター | Amkorの単独立地。バクニン省一帯は電子製造の集積地 | 微細電子・情報技術で約70社、バイオテクノロジーで約30件の投資案件 |
| 視察で見るべき点 | 設計ツールを使える条件、大学・研究機関との共同研究の入り口 | クリーンルームの規模、サプライヤーとして認められるまでの手順 | 入居企業の顔ぶれと業種、管理委員会の支援内容 |
| 留意点 | 研究と人材育成が主眼で、量産の商談窓口ではない | クリーンルームを持つ量産工場 | 広いため、訪問先を事前に絞らないと視察が散漫になる |
※所在地・アクセス・受け入れ条件は変わることがあります。手配の前に、各拠点の公式窓口でご確認ください。
3. NIC Hoa Lac|チップ設計と人材育成という「川上」を押さえる政府拠点
NIC Hoa Lacは、政府系のチップ設計拠点です。施設の規模と協業先、日本企業にとって現実的な入り口がどこにあるかを確認します。
延床約2万平方メートル|建設費の多くをクラウドファンディングで賄った
国家イノベーションセンター(NIC)は、計画投資省の傘下で、ベトナムのスタートアップとイノベーション政策の中核を担う機関です。ハノイ近郊のホアラック・ハイテクパーク内に開設された拠点は、延床面積が約2万平方メートル、建設費は約1兆ドン(4,400万ドル)で、その多くをクラウドファンディングで賄ったと報じられています。
この拠点にはチップ設計インキュベーター(設計に取り組む企業や研究チームを育てる施設)が置かれ、Synopsysやアリゾナ大学、Keysight、Sun Eduなどが協業しています。
出典:The Investor「Vietnam opens new National Innovation Center facility, chip design center」(2023年10月)
日本企業の入り口|設計ソフトの提供か大学連携
NICは研究と人材育成を主眼とする施設です。日本企業にとっては、設計ソフトウェアの提供、大学との共同研究、人材育成プログラムでの連携が現実的な入り口になります。量産サプライヤーとしての直接取引を期待する段階ではない点にご注意ください。
視察では、設計ツールを使える条件、大学や研究機関との共同研究がどこから始まるか、日本企業の参加実績があるかを確認してください。
4. Amkorベトナム(バクニン省)|外資が実際に量産する後工程の現場
Amkorのバクニン工場は、外資が実際に量産している後工程の現場です。投資規模と設備の内容、周辺に生まれるサプライヤー需要を確認します。
総投資額16億ドル|クリーンルーム20万平方メートルの後工程拠点
米Amkor Technologyは2023年10月、北部バクニン省のイエンフォン2C工業団地に後工程(組立・パッケージング・検査)の工場を開所しました。総投資額は16億ドル、敷地面積は57エーカー(約23ヘクタール)、クリーンルーム面積は20万平方メートルです。同社は、先端のSiP(システム・イン・パッケージ。複数の半導体を1つのパッケージにまとめる技術)とメモリ製品の量産から立ち上げるとしています。
出典:Amkor Technology「Amkor Inaugurates Latest Factory in Vietnam」(2023年10月)
クリーンルーム建設・検査装置・特殊材料に商機がある
大規模な後工程工場が稼働すると、周辺にはクリーンルームの建設や空調設備、検査装置、特殊ガスや薬液、搬送・梱包資材といった需要が生まれます。バクニン省一帯は電子製造の集積地でもあるため、単独の巨大工場としてではなく、集積の一部として捉えるほうが実態に近くなります。
視察では、Amkorとの商談の可否だけでなく、周辺の工業団地に同種のサプライヤーがどれだけ集まっているか、入居の条件はどうかを併せて確認してください。
5. サイゴンハイテクパーク|約70社が集積する南部の生産エコシステム
サイゴンハイテクパークは、単一の施設ではなく広域の集積地です。規模と入居の状況、そこで何を見るべきかを確認します。
913ヘクタール|2025年の生産額は約230億ドル
サイゴンハイテクパーク(SHTP)は2002年、ホーチミン市が国家ハイテクパークとして設立した広域エリアです。総面積は913ヘクタール、ホーチミン中心部から東へ約15キロメートルに位置します。
出典:TTTFIC Group「Saigon Hi-Tech Park HCMC」
微細電子・情報技術で約70社|バイオで約30件の投資案件が集まる
2026年2月の報道によると、SHTPには微細電子・情報技術の分野で約70社、バイオテクノロジーの分野で約30件の投資案件が集まり、2025年の生産額は約230億ドルと推計されています。
なかでもIntelは、ベトナムでの約20年間に15億ドル超を投資し、累計の輸出額は1,000億ドルを超えたとされています。雇用については、2023年11月時点の報道で、ハイテク分野で約6,500人の雇用を創出し、当時の正規従業員は約2,400人とされていました。
出典:CAND Online「Saigon High-Tech Park consolidates role as sci-tech nucleus」(2026年2月)、SGGP English Edition「Intel's factory still operates in Vietnam normally: SHTP head」(2023年11月)
「1社を見る」のではなく「集積の厚み」を見に行く場所
SHTPは、NICのような単一の施設でも、Amkorのような単一の工場でもありません。大手から中堅・中小まで幅広い企業が同居する広域エリアです。目的を絞らずに訪れると、広い敷地を歩くだけで終わってしまいます。
管理委員会(Board of Management)が提供する支援の内容、入居企業に日系企業との取引実績があるか、といった、単独の訪問では見えにくい「集積としての厚み」を確認する視点が欠かせません。
6. 3拠点をどう回るか|視察の実行計画

視察の成果は、渡航前の準備と帰国後の判断で決まります。商流の見極めから帰国後の動きまで、6つの要素に分けて示します。
①商流の見極め|3拠点は入り口がまったく違う
NIC Hoa Lacへの入り口は、大学・研究機関との共同研究や、設計ツールのベンダーとの技術提携という「研究・教育の系統」です。Amkorベトナムへの入り口は、同社の調達部門やバクニン省の投資誘致窓口を経由する「量産サプライヤーの系統」になります。サイゴンハイテクパークへの入り口は、管理委員会を通じて入居企業を紹介してもらう「集積に参加する系統」です。
3つはまったく別の商流です。渡航前にどの系統を狙うかを決めておかないと、現地で会うべき相手を取り違えます。
②渡航前に社内で確定させる6つの項目
確定させておくのは次の6つです。半導体関連での納入実績(クリーンルーム施工・検査装置・特殊材料などの類似案件)、国際規格への適合状況、現地生産・現地調達への対応可否、保守とサポートの体制、資金調達の組み立て(円建てかベトナムドン建てか)、対応できる言語のレベル。
商談で聞かれたときに、その場で答えられる形にしておいてください。確定できない項目は「要確認」として、帰国後に回答する準備をしておきます。
③拠点の組み方|北部2拠点と南部を分けて考える
NIC Hoa Lacはハノイ近郊のホアラック・ハイテクパーク、Amkorの工場は北部バクニン省のイエンフォン2C工業団地です。この2つは北部にまとめ、南部のサイゴンハイテクパーク(ホーチミン中心部から東へ約15キロメートル)は分けて考えます。
④視察メンバーの構成|設計系と量産系で専門性を分ける
NICの訪問には、研究開発や技術提携を担当できる人材(大学連携や共同研究の経験者)が向いています。Amkor周辺の視察にはクリーンルームや生産設備に詳しいエンジニア、SHTPでは現地の商習慣や行政手続きに通じた事業開発の責任者が望ましいでしょう。
3拠点すべてを同じメンバーで回るより、目的に応じて構成を変えるほうが、限られた時間で得られる情報の質が上がります。
⑤半導体の工程と現地調達を聞く質問リスト
3拠点で同じ質問を聞き、答えを同じ表に書き込みます。自社が半導体のどの工程(設計・前工程・後工程・実装)と接点を持てるか。現地調達の比率や規格適合の実務要件はどうか。人材採用にかかる期間と定着率はどのくらいか。すでに取引のある日系企業はあるか、その評価はどうか。輸出入や通関(税関に申告して輸出入の許可を受ける手続き)で詰まりやすい点はどこか。年間で稼働や商談が止まる時期はあるか。
逆に、答えが総論になる質問は避けます。「御社の技術は世界最先端ですか」のような総論は、拠点ごとに語れる内容が違うため比較になりません。各拠点の性格に合わせた具体的な質問に絞ってください。
⑥帰国後にやること|本命の系統を決める
帰国後は、視察先ごとの連携メニューの有無(NIC、バクニン省、SHTP管理委員会)を整理します。そのうえで、自社が「設計の系統」「量産サプライヤーの系統」「集積に参加する系統」のどれを本命とするかを決め、担当部署と予算を確定します。
人材採用や教育連携を検討する場合は、政府の育成目標(2030年までに5万人)の進み具合を踏まえて、大学との連携時期も合わせて判断します。本命を決めないままだと、集めた情報が進出の判断につながりません。
▶ 推奨アクション
・SEMI「SEMIEXPO Viet Nam 2026」(2026年12月3〜4日、ホーチミン市開催)への参加を検討する
・国家イノベーションセンター(NIC)公式サイトで、研究連携と設計拠点の最新情報を確認する
・設計・量産・集積のどの系統から入るかの整理と、ベトナムの半導体分野の現地パートナーの紹介をDigima〜出島〜に相談する
7. よくある質問
ベトナムの半導体視察について、読者から多い4つの疑問に答えます。
3拠点はどう分けて回りますか。
北部の2拠点(NIC Hoa LacとAmkor)と南部のサイゴンハイテクパークの2グループに分けて考えます。NIC Hoa Lacはハノイ近郊のホアラック・ハイテクパーク、Amkorの工場は北部バクニン省のイエンフォン2C工業団地にあります。サイゴンハイテクパークはホーチミン中心部から東へ約15キロメートルの南部にあります。
ベトナムの半導体人材はどのくらい不足していますか。
ベトナム政府は2024年9月の首相決定1017号・1018号で、半導体人材を2030年までに5万人、2040年までに10万人育成する計画を示しています。日本側では、九州半導体人材育成等コンソーシアムが在九州企業への調査から、この先数年で約1,000人単位の不足を見込んでいます。育成目標は裏を返せば現在の不足を示すものでもあるため、即戦力の確保が容易とは限りません。
サイゴンハイテクパークにはどのくらいの企業が入っていますか。
2026年2月の報道によると、微細電子・情報技術の分野で約70社、バイオテクノロジーの分野で約30件の投資案件が集まっています。2025年の生産額は約230億ドルと推計されています。総面積は913ヘクタールで、2002年に設立されました。
ベトナムの半導体視察の相談は、どこにすればよいですか。
3拠点の情報は各拠点の公式サイトと公開資料で確認し、法人設立や人材採用はベトナムの専門家に相談します。設計・量産・集積で入口が違うため、自社が狙う系統を決めてから相談先を選ぶと話が早く進みます。Digima〜出島〜では、専門コンシェルジュが内容をヒアリングし、ベトナムの半導体分野に実績のある支援企業を3〜5社に絞って無料で紹介しています。
8. ベトナムの現地視察はDigima〜出島〜に相談
ベトナムの半導体は、設計・量産・集積という性格の違う拠点が、それぞれ別の商流を持っています。だからこそ、どの場面で自社が関わるのかを渡航前に決め、視察先を目的に合わせて選ぶことが、限られた日程を無駄にしないための前提になります。
Digima〜出島〜では、ベトナムへの進出や半導体関連の事業を支援する現地専門家・法律事務所・会計事務所・実績のある日系企業を無料でご紹介しています。視察後の具体的な進出検討から、現地パートナーの選定、規格適合や人材採用の実務まで、貴社の状況に合わせたサポートが可能です。まずは無料の海外進出タイプ診断で、自社に合った進出スタイルを確認してみてください。
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