手ぶら観光サービスの始め方|訪日客の荷物預かり・配送で集客につなげる方法
大きなスーツケースを持ったままでは、観光も買い物も一苦労です。観光庁が2025年に主要3空港で訪日客1,598人に行った調査では、配送サービスの利用者(193人。一時預かりは含まない)の満足度は約9割と高い一方、サービスを知っていた人の69.8%はどれも使っていませんでした。課題の最多は「どのようなサービスがあるのかわからない」(25.7%)です(出典:観光庁「オーバーツーリズム対策に向けた手ぶら観光推進に係る調査事業 最終報告書」2026年3月、以下「観光庁報告書」)。
荷物を預けられる場所があると伝われば、それ自体が来店のきっかけになります。本記事では、店舗・商業施設・宿泊施設や自治体・DMOに向けて、2026年時点の制度の状況と、始め方・運営・集客の実務を順に整理します。
この記事でわかること
- ・手ぶら観光の仕組みと、2026年時点の国の支援
- ・預かり型と配送型の違い、共通ロゴマークの要件と申請
- ・補償と規約、料金、多言語での受付の決め方
- ・見つけてもらう方法と、預けた人に買ってもらう工夫
1. 手ぶら観光とは?事業者にとっての意味
手ぶら観光の仕組み(一時預かり・当日配送)と国の後押し
手ぶら観光とは、空港・駅・商業施設などの受付カウンターで訪日客の荷物を一時的に預かったり、空港・駅・ホテル・海外の自宅などへ配送したりして、身軽に観光できるようにするサービスです(出典:国土交通省「『手ぶら観光』共通ロゴマーク申請Q&A」、以下「ロゴQ&A」)。国土交通省(国交省)は2015年3月に、サービス拠点を示す共通ロゴマークを定めました。
制度は2026年時点も運用されています。ロゴの使用要領は2023年10月に改訂され、承認を受けたカウンターの一覧は2026年8月20日にも更新されました。この一覧(廃止分を除くPDF版)には384か所が載っています(出典:国土交通省「オープンデータ(手ぶら観光カウンター情報)」)。
観光庁の令和8年度「オーバーツーリズムの未然防止・抑制をはじめとする観光地の面的受入環境整備促進事業」は、手ぶら観光カウンターの整備・機能向上の費用も補助対象の例でしたが、二次公募は2026年7月17日に締め切られています。申請主体は、地域一体型が地方公共団体・登録DMO(補助率2/3以内・上限2億円)です。一般型は民間事業者等も申請できます(1/2以内・上限5,000万円)が、地方公共団体以外が申請する場合は関係する地方公共団体との連携(連携を証する書類)が必要です(出典:観光庁「公募要領(二次公募)」「公募情報」)。次年度以降は観光庁の公募情報で確認しましょう。観光庁報告書のモニター調査では、観光できる時間が概ね30分〜1時間増えたエリアが多かったとしています。
事業者が得られるもの(預かり料金・来店・ついで買い)
効果は大きく3つです。1つ目は、預かり料金や配送の受付による収入です。ただし、ホテルが宿泊客の荷物を無料で預かるような本来のサービスの一部は、ロゴの承認対象外です(出典:ロゴQ&A)。
2つ目は、来店のきっかけです。承認カウンターの情報は国交省の一覧に載り、オープンデータとして民間のサービスでも使われます。
3つ目は、ついで買いです。預かり型なら、同じ客が預けるときと受け取るときの2回来店します。一方で、報告書では事業者から保管スペースのひっ迫や人員不足も課題に挙がっています。
2. 始めるための準備
預かり型と配送型の違い(配送は運送会社の取扱店として受付が基本)
預かり型は店内で保管して同じ場所で返す形、配送型はホテルや空港などへ届ける形です。
自社の車で他人の荷物を有償で運ぶ場合は、貨物自動車運送事業法の許可(軽自動車などは届出)が必要です。自社が運送を引き受けて実際の運送を他社に任せる形は、貨物利用運送事業法の登録・許可の対象になりえます。
そのため店舗や施設は、運送会社の取扱店(代理店)として受付を担う形が基本です。ロゴQ&Aも「宅配便の代理店となっている宿泊施設は多く」と説明しています。運送会社の運賃・運送会社を相手方とする送り状で受け付けるなら取扱店、自社の料金で配送を請け負うなら利用運送に当たりえます。どの形に当たるかは契約の中身で変わるため、組む運送会社や地方運輸局に確認しましょう。
| 項目 | 預かり型 | 配送型(取扱店として受付) |
|---|---|---|
| 必要なもの | 保管スペース・預かり票・規約 | 運送会社との取扱店契約 |
| 来店の回数 | 預け入れと受け取りの2回 | 基本は預け入れの1回 |
| ロゴの主な条件 | 英語の料金表・英語での案内・補償内容の掲示 | 左記+特定地域への当日・翌日配送 |
共通ロゴマークの認定要件と申請(英語での案内・補償の掲示)
共通ロゴマークの使用を承認するのは、国交省物流・自動車局の物流政策課です。使用料は無料で、使用期間の定めもありません(出典:国土交通省「『手ぶら観光』共通ロゴマーク使用要領」2023年10月改訂、以下「使用要領」)。承認の主な条件は次の5つです。
・スーツケースと土産品の配送または一時預かりの、少なくとも一方ができる(免税店は土産品のみでも可)
・(配送を行う場合)特定地域への当日配送か翌日配送ができる(国外への配送を除く)
・料金体系の一覧を示す(ロゴQ&Aでは英語で記載)
・英語で案内できる(翻訳アプリや電話通訳の利用でも可)
・配送と一時預かりの補償内容を英語でわかりやすく掲示する
申請は、国交省のページにある申請様式(入力フォーム)に、英語の料金表と、補償内容の掲示がわかるカウンターの写真などを添えてメールで送ります。承認までは概ね1週間、混み合うと1か月程度です。開設前でも、掲示予定の物を出せば条件付きで承認を受けられます(出典:ロゴQ&A)。
補償と預かり規約の決め方(紛失・破損・保管期限)
ロゴQ&Aは、民法・商法などの規定により、事業として配送や一時預かり(寄託)を行う場合、故意や過失で損害が出れば賠償する責任があるとして、補償内容を定めることを必須としています。商法595条は、商人が営業の範囲内で物を預かる場合、無料であっても善良な管理者の注意(その立場の人に通常求められる注意)で保管するよう定めています。さらに旅館・飲食店・浴場など客の来集を目的とする場屋の営業者は、客から寄託を受けた物品の滅失・損傷を不可抗力によると証明しなければ賠償責任を免れず、責任を負わない旨を表示しても免れません(商法596条1項・3項)。
規約では、例えば次の点を日本語と英語で決めておきましょう。
・1個あたりの補償の上限額と、補償しない場合
・預かれない物(現金・貴重品・壊れやすい物・生もの・危険物など)
・荷物の大きさと重さの上限
・保管期限と、期限を過ぎた荷物の扱い
・受け取りに必要な控え(番号札など)
配送の部分には運送会社の約款が適用されます。国交省の標準宅配便運送約款では、紛失や損傷の賠償は送り状に記載された責任限度額の範囲内とされています。自社の預かり分の補償と分けて説明し、保険や規約の文言は保険会社や弁護士に確認してください。
3. 運営と集客のポイント
料金の決め方と多言語での受付・支払い
観光庁報告書の調査では、大型荷物1個あたりの配送料として「利用してもよい」と答えた金額は中央値2,000円、平均2,557円でした。重視する点は「価格」53.6%、「アクセス性」51.7%、「外国語対応」42.7%の順でした。
預かり料金は、国交省の一覧で近くのカウンターの料金を確かめ、荷物の大きさ別・1日単位で示すとわかりやすくなります。
課題として「案内が日本語中心でわかりづらい」(15.3%)、「伝票の記入など手続きが面倒」(9.0%)も挙がっています。料金表・規約・預かり票を英語でそろえましょう。
支払いはクレジットカードやQRコード決済に対応しておくと安心です。導入の手順は「訪日外国人の決済対応ガイド」をご覧ください。
見つけてもらう方法(JNTOのサイト・Googleマップ・予約アプリ)
国交省は、承認を受けたカウンターのリストをJNTO(日本政府観光局)のホームページで国内外に発信するとしています。JNTOの訪日客向けサイト「Travel Japan」でも、ロゴのあるカウンターを国交省の一覧で探せると紹介しています(出典:国土交通省「手ぶら観光の推進」、JNTO「Luggage & Storage」)。
ただし観光庁報告書では、手ぶら観光の認知度は約4割で、訪日後に知った人は約1割にとどまります。知ったきっかけは「友人・知人からの紹介」28.5%、「Instagram投稿」20.6%が上位で、利用案内がほしい時期は「計画段階」が74.7%でした。
そこで、Googleマップの店舗情報に英語で荷物預かりのサービス名・料金・受付時間を載せましょう。設定方法は「Googleビジネスプロフィールのインバウンド活用完全ガイド」で解説しています。荷物預かりの予約アプリへの登録や、近くのホテルに案内を置いてもらう連携も有効です。
預けた人に買ってもらう工夫(店内への誘導・受け取り時の案内)
預かり型なら、受付を売り場の奥やレジの近くに置き、売り場を通って行き来する動線にすると、商品を目にする機会が増えます。預け入れ時に英語の店内マップを渡すのも一案です。
受け取りの際は、買った土産品をスーツケースに詰めるだけでなく、ホテルや空港へまとめて送る提案ができます。売り場づくりの考え方は「インバウンド集客の成功事例・小売編」も参考になります。
自治体・DMOは、複数の店が使える規約・料金表のひな形を用意すると取り組みが広がります。自治体の受入環境整備の支援も確認しましょう。
4. よくある質問(FAQ)
Q1. 手ぶら観光の共通ロゴマークは今も申請できますか?
国土交通省の物流政策課が申請を受け付けています。使用料は無料です。
Q2. 店舗が荷物の配送サービスを始めるのに許可は必要ですか?
自社の車で有償で運ぶなら貨物自動車運送事業法の許可などが必要です。運送会社の取扱店として受付を担う形が基本ですが、契約の形で変わるため運送会社や運輸局に確認しましょう。
Q3. 英語を話せるスタッフがいなくても始められますか?
ロゴの承認では、翻訳アプリや電話通訳を使った英語での案内も認められています。ただし、補償内容を英語で掲示することは必須です。
Q4. 手ぶら観光カウンターの整備に使える補助金はありますか?
令和8年度は観光庁の面的受入環境整備促進事業で補助対象の例でしたが、二次公募は7月17日に締め切られています。申請主体は地方公共団体・登録DMOが中心で、民間事業者等は地方公共団体との連携が必要です。次年度以降は観光庁の公募情報で確認しましょう。
5. まとめ
手ぶら観光は、預かり型なら保管スペースと規約から小さく始められ、配送は運送会社の取扱店として受付を担う形が基本です。英語の料金表と補償内容をそろえて共通ロゴマークの承認を受け、見つけてもらえる状態をつくりましょう。
預け入れと受け取りの2回の来店を、売り場への誘導や配送の提案につなげれば、荷物の預かりが集客と売上の入り口になります。
6. 優良な海外進出サポート企業をご紹介
「Digima〜出島〜」には、厳正な審査を通過した優良な海外進出サポート企業が多数登録しています。
手ぶら観光の受付づくりは、多言語対応や決済、集客の発信までが一続きです。インバウンド対応に実績のある企業に相談すれば、自社に合った進め方を描けます。
「何から始めればよいかわからない」という段階のご相談でも構いません。無料でご相談いただけますので、お気軽にお問い合わせください。
参考文献
・観光庁「オーバーツーリズム対策に向けた手ぶら観光推進に係る調査事業 最終報告書」(2026年3月)
https://www.mlit.go.jp/kankocho/content/001997869.pdf
・国土交通省「手ぶら観光の推進」
https://www.mlit.go.jp/seisakutokatsu/freight/seisakutokatsu_freight_tk1_000069.html
・国土交通省「『手ぶら観光』共通ロゴマーク使用要領」(2023年10月改訂)
https://www.mlit.go.jp/seisakutokatsu/freight/content/001965743.pdf
・国土交通省「『手ぶら観光』共通ロゴマーク申請Q&A」
https://www.mlit.go.jp/seisakutokatsu/seisakutokatsu_tk_000031.html
・国土交通省「オープンデータ(手ぶら観光カウンター情報)」(2026年8月20日更新)
https://www.mlit.go.jp/seisakutokatsu/freight/seisakutokatsu_freight_tk1_000141.html
・観光庁「令和8年度 オーバーツーリズムの未然防止・抑制をはじめとする観光地の面的受入環境整備促進事業 公募要領(二次公募)」(2026年7月)
https://www.mlit.go.jp/kankocho/content/002004332.pdf
・観光庁「公募情報(令和8年度 二次公募)」
https://www.mlit.go.jp/kankocho/kobo08_00057.html
・JNTO「Luggage & Storage」
https://www.japan.travel/en/plan/getting-around/luggage-storage/
・国土交通省「標準宅配便運送約款」
https://www.mlit.go.jp/jidosha/content/001881514.pdf
・貨物自動車運送事業法(e-Gov法令検索)
https://laws.e-gov.go.jp/law/401AC0000000083
・貨物利用運送事業法(e-Gov法令検索)
https://laws.e-gov.go.jp/law/401AC0000000082
・商法(e-Gov法令検索)
https://laws.e-gov.go.jp/law/132AC0000000048
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