アジア進出日系企業の平均離職率は「15.5%」、進出成功に与える影響は?
多くの日系企業にとって、海外事業の成否が今後の企業存亡を占う重大な要素であることは言うまでもありません。そしてその中でも地理的に近いアジアはもはや、日系企業にとって無視できない重要な事業エリアとなっています。
そこで、アジア9ヵ国と英国・ドイツに拠点を持つ【株式会社ジェイエイシー リクルートメント】では、『アジア人材戦略レポート』と題し、「グローバル競争を勝ち抜く日系企業の人材戦略」についてアンケート調査・考察を実施。それらの調査を元に、日系企業がグローバル競争で勝ち抜いていくために「今何をすべきか?」をテーマに、少しでも皆様のヒントになればとの想いで、オリジナルのレポートを作成いたしました。
全6回シリーズからなる本レポートでは、アジアで好業績を収めている企業の特徴を、「採用」「育成」「人事制度・福利厚生」「給与」「社内コミュニケーション」の5つの観点から探し出し、現地でのヒアリング調査によって集めた人事課題やその取り組み事例をご紹介していきます。
人材が時に「人財」と表現される様に、企業経営において人への投資が重要事項と捉えられている一方で、人材に関する取り組みは中長期(というよりその企業が存続する限り永遠)に及び、業績に与える影響を可視化することは極めて困難です。
私は、仕事柄、日々多くの企業経営者や海外事業責任者、人事責任者の方々とお会いしていますが、海外事業において人や組織の問題を抱えていない企業などないと断言します。
本レポートを通じ、自社の人事課題の把握や今後に向けた打ち手の話し合いを始めるなど、海外事業に携わる皆様が、今抱える問題から一歩でも前進されるきっかけにして頂けることを願っています。
▼ アジア進出日系企業の平均離職率は「15.5%」、進出成功に与える影響は?
1. アジアでの平均離職率は「15.5%」
本レポートでは、「直近の業績について、売上・利益・成長性・収益性など、貴社が最重要視するKPIの達成状況はどうか?」という質問に対して、「大幅に達成している」「達成している」と回答した企業を、「達成企業」と位置付け、それ達成企業の回答と、そうでない企業の回答の2つを比較しながら考察していきます。
シリーズ第1回では、まずその前段として「アジアの離職率」に対する調査結果をレポートします。人材戦略において離職率は切っても切れない重要な指標ですが、「海外では転職が当たり前で離職率が高い」というイメージもあるでしょう。そこで、実際に日系企業が直面している課題について調査した上で、全6回に渡って、「採用」「育成」「人事制度・福利厚生」「給与」「社内コミュニケーション」といった5つの観点による人材戦略の考察へと話を進めていきます。
「アジアの離職率」に関する調査結果
さて、「アジアの離職率」についてですが、多くの人が、海外では転職が当たり前で離職率が高い、というイメージを持っているのではないでしょうか。離職が多いということは、それだけ人材採用に時間とコストを割かなければならないことから、経営にも重大な影響を及ぼしかねません。さて、今回の調査ではアジア(※)の離職率は15.5%という結果となりました。
※ 中国、香港、韓国、マレーシア、ベトナム、タイ、シンガポール、インドネシア、インド
厚生労働省発表のデータ(平成28年雇用動向調査結果の概況)によると日本の離職率は約15%と、離職率の定義は異なるもののほぼ同水準の数値となっています。ただし回答企業は海外展開できるほど日本での事業基盤が整っており、一般的にそうした企業での日本での離職率は平均(15%)より低いと考えられます。
つまり、回答企業の日本本社側と海外拠点側の離職率との比較においては、海外拠点の方が離職率が高い傾向があると言えるでしょう。これはアジアにおいて、転職がキャリアアップとみなされる価値観、低い失業率、企業の新規進出や事業拡大などによる転職機会の増加などが要因となっていると考えられます。
また、企業規模別でみると、従業員数が10名未満の企業では離職率は全体平均より高くなっており、企業規模が大きくなるにつれて徐々に離職率が下がっていく傾向が見て取れます。立ち上げ期や事業拡大のフェーズにおいては、組織が急拡大する過程で従業員それぞれのミッションや業務内容、業務範囲、会社の制度といったことが流動的になるため、人材が流出しがちです。
逆に言えば、海外での事業が立ち上げ期から安定期に移行するタイミングで、離職率は下がっていき、本社の水準に近づいていくと考えられます。
2. 離職率と業績達成に相関性はない? 組織の新陳代謝はアジアでも重要
離職率よりも〝離職の内容〟を意識する必要がある
離職率が高い企業が離職率を下げるための取り組みを行うことはある意味当然のことではあります。しかし、一方で業績目標を達成している企業の平均離職率は15.2%と、全体平均の15.5%と比較して必ずしも低いわけではないということ、そして、離職率が10%未満という比較的定着性の高い企業に占める達成企業の割合は31%と、全体平均の32%に比べて高くない(つまりは離職率と業績とが直接的に関係していない)点は留意する必要があります。
組織の新陳代謝を行う点から「人が辞めないこと」も問題で、ある程度人材が入れ替わり続ける状況こそ望ましいと考える経営者や人事担当者がいることにも頷ける結果と言えます。
ぬるま湯的な環境であるため、パフォーマンスが良くないローパフォーマーが辞めないという問題は、最近よく耳にします。そのため、ローパフォーマーによってポストが埋まってしまい、活躍している人材の昇格昇給ができないまま、ハイパフォーマーが辞めてしまうという問題もあります。
つまり、離職については単に離職率の高さだけでなく”離職の内容”を意識する必要があると言えます。その結果、辞めてほしくない人材が辞めてしまっているということであれば、早急に何らかの打ち手を講じる必要があります。
3. まとめ
いかがだったでしょうか? まずは前段として「アジアでの離職率」と「離職率が業績達成に与える影響」について考察しました。
次回からは、こうした前提を元に、「採用」「育成」「人事制度・福利厚生」「給与」「社内コミュニケーション」の5つの観点から、成功企業の人材戦略について考察していきます。下記のリンクから関心のある記事へとお進みください。
『アジア人材戦略レポート』 全6回シリーズ
■ Vol.1 【離職率】「アジア進出日系企業の平均離職率は「15.5%」、進出成功に与える影響は?」
■ Vol.2 【採用】「アジア各国の「採用」事情は? 成功企業の採用戦略は「チャネル拡大」」
■ Vol.3 【育成】「【事例あり】海外人材育成と業績は連動する! 成功企業の育成プログラムとは?」
■ Vol.4 【人事制度・福利厚生】「アジア進出企業の「人事制度」事情は? 福利厚生と業績に相関性 【事例あり】」
■ Vol.5 【給与】「アジア進出企業の「給与」事情、「給与テーブルの見直し」がビジネス成功につながる」
■ Vol.6 【社内コミュニケーション】「アジア進出企業を徹底調査! 成功のポイントはコミュニケーションの方法・頻度?」
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