バングラデシュは“次の製造拠点”となるか?|トランプ相互関税後の生産戦略と進出メリットを徹底解説

2025年4月、米国政府が発表した「相互関税政策」は、世界中の製造業とサプライチェーンに大きな衝撃を与えました。すべての国に最低10%の一律関税を課すだけでなく、貿易相手国ごとに最大50%にも及ぶ追加関税を科すというこの新政策により、日本をはじめ、中国・ベトナム・タイといった主要な輸出拠点が一斉に高関税の対象となりました。
この状況は、長年構築されてきた「中国→ASEAN」中心のグローバル製造モデルに再考を迫るものです。とくに米国市場への輸出比率が高い日本企業にとって、サプライチェーンの再設計と製造拠点の再配置は喫緊の課題となっています。
こうした流れの中、注目を集めているのがバングラデシュです。世界第2位のアパレル輸出国としての実績、急成長する若年労働力、外資誘致を進める法制度、そして今のところ相互関税の直接対象になっていないことから、“ポスト中国・ポストASEAN”の選択肢として再評価が進んでいます。
本記事では、バングラデシュを製造拠点として検討する際に押さえておきたい最新の国際環境、進出メリット、制度的留意点、サプライチェーン再構築の方向性を体系的に解説します。短期のコストだけでなく、中長期的な企業競争力強化を見据えた判断材料としてご活用ください。
▼ バングラデシュは“次の製造拠点”となるか?|トランプ相互関税後の生産戦略と進出メリットを徹底解説
バングラデシュが製造拠点として再注目される理由
米国「相互関税政策」が突きつけた生産分散の限界
2025年4月に発表された米国の「相互関税政策」は、世界の製造業にとってまさにゲームチェンジャーとなりました。すべての輸入品に最低10%の関税を課すベース関税に加え、国ごとに「対米貿易障壁の度合い」に応じた追加関税が上乗せされるという、極めて挑発的な貿易政策です。日本は合計で24%、ベトナム45%、タイ36%、インドネシア32%など、アジア主要国の多くが高関税の対象となりました。
この政策によって、それまで有効とされてきた「チャイナ+1」戦略──すなわち、中国からベトナムやタイへ生産拠点を分散させるリスク回避策──が事実上機能しなくなりました。第三国経由での輸出でも同様に関税が課されるため、これまでのサプライチェーン設計では米国市場への競争力を維持することが困難になります。日本企業にとっては、これまで進めてきた中国依存からの脱却やASEAN展開も、改めて見直すべき局面を迎えているのです。
中国・ASEAN拠点の“高関税リスク”とその波及
今回の相互関税政策が特に深刻なのは、単なる米国市場向け輸出の問題にとどまらないという点です。日系企業の多くは、ベトナムやタイ、インドネシアといったASEAN諸国に製造拠点を構えていますが、これらの国々からの米国向け輸出も高関税の対象となることで、既存の拠点の収益性や稼働率が揺らぎ始めています。
たとえば、ベトナムで製造された電子部品を米国に出荷する場合、従来は中国製よりも低い関税で競争力を保てていました。しかし45%という非常に高い関税が課されることで、価格面での優位性が消滅し、調達元や生産地の再構築を迫られる事態となっています。さらに、ASEAN市場全体が米国への輸出に依存している割合が高いため、米国向け輸出の冷え込みが現地経済に波及し、それが結果として日系企業の現地事業にも影響を及ぼすという「二次的な波紋」も見逃せません。
このように、従来の拠点選定ロジックが通用しにくくなったいま、新たな分散候補地としての検討が急がれています。
バングラデシュは今のところ非対象国、脱・中国+ASEANの受け皿に?
こうした状況の中で、製造拠点としての存在感を急速に高めつつあるのがバングラデシュです。今のところ、米国による相互関税政策の高関税対象国にはバングラデシュは含まれておらず、一律10%のベース関税のみが適用されると見られています。これは、日本・中国・ASEAN諸国と比較すると非常に低い水準であり、対米輸出のコスト競争力を維持する上で大きなアドバンテージとなります。
さらに、バングラデシュは長年にわたって繊維・アパレル分野で対米輸出を続けてきた実績があり、米国との貿易関係が安定していることも魅力です。欧米諸国との外交関係が比較的中立的で、地政学的リスクも相対的に小さい点も、リスク分散の観点から注目されています。
中国やASEANに代わる「第三極」として、南アジア圏への関心が高まる中、“バングラデシュという選択肢”は、価格競争力・政治リスク・サプライチェーン再設計という観点すべてにおいて、極めて現実的かつ戦略的なオプションになりつつあります。
バングラデシュ製造業の現状と日系企業の展開
世界第2位のアパレル輸出国としてのポジション
バングラデシュは、長年にわたりアパレル産業を中核に据えた輸出型経済を築いてきました。とりわけ衣料品分野では、中国に次ぐ世界第2位のアパレル輸出国として、国際的な地位を確立しています。H&MやZARA、ユニクロなど、グローバルなファッションブランドの多くが同国の縫製工場と取引関係を持ち、コスト競争力と量産体制の両面において高い評価を得ています。
この成長を支えるのが、豊富な若年労働力と安価な人件費です。労働人口の中央値が20代前半という若さで、製造業に従事する人材の確保が比較的容易であることが、バングラデシュの最大の強みのひとつです。また、アパレル分野においては長年の輸出経験により、生産から輸送、通関までの一連の流れが一定の成熟度を持っており、外資系企業にとっても参入障壁が低いといえます。
さらに、同国は欧米市場に対して関税上の優遇措置(GSP、EBAなど)を享受しており、コストパフォーマンスの高い製造拠点として選ばれやすい状況が続いています。こうした背景から、アパレル分野を軸に発展してきた産業基盤が、他の製造業への波及を促す土台となっているのです。
電子機器・プラスチック・機械加工など新分野の広がり
近年、バングラデシュではアパレル一辺倒だった産業構造に変化が生まれつつあります。政府の産業多角化戦略や外資誘致政策の後押しにより、電子機器、プラスチック加工、自動車部品、機械加工といった分野でも工場進出が相次いでいます。
たとえば、韓国のSamsungやWaltonといった家電メーカーは、現地生産体制の構築を進めており、テレビや冷蔵庫、スマートフォンなどの組立工程を国内で行っています。日本企業の中でも、建機部品や精密加工品を手がける中小企業が、一部の工業団地で生産拠点を構え始めており、「脱アパレル」の流れは着実に広がっています。
これに伴い、製造業向けのインフラ整備も進行中です。特に、プラスチック加工や金属部品加工など、比較的軽工業に近い業種を中心に、用地の確保や技術者育成の仕組みも整えられつつあります。今後は、繊維産業で培った労務管理や輸出オペレーションのノウハウを活用しながら、より高付加価値な製造業へと産業構造の転換が進むことが期待されます。
工業団地/EPZを活用した日系進出事例の紹介
バングラデシュ政府は外資誘致の一環として、各地に経済特区(Economic Zones)や輸出加工区(Export Processing Zones, EPZ)を整備しており、日系企業の進出事例も徐々に増えています。特に注目されているのが、首都ダッカ近郊の「ジャムナ工業団地」や、「BEPZA(バングラデシュ輸出加工区庁)」が運営するチッタゴンEPZ、カリアクールEPZなどです。
たとえば、日系アパレル関連企業がチッタゴンEPZで縫製工場を運営しており、日本品質の生産管理体制と現地労働力の融合によって、安定的な輸出体制を築いています。また、東京都内に本社を持つある精密部品メーカーは、バングラデシュのコスト優位性に着目し、EPZ内に組立ラインを設けて欧州市場向けに出荷しています。これらの事例では、現地パートナーや日系商社の支援を得ながら、税制・法制度のギャップをクリアして事業運営が行われています。
EPZでは外資100%出資が可能であり、法人税の減免や輸出インセンティブといった優遇措置が整備されている点も日系企業にとって大きな魅力です。今後は、電子部品や車載部品など、より技術志向の業種にも門戸が広がっていくと予想されます。
バングラデシュ進出のメリットとは?
人件費の安さと若年層人口による労働力供給
バングラデシュが製造拠点として注目される最大の魅力の一つが、圧倒的な人件費の安さと豊富な若年労働力です。2024年時点での平均月額賃金は製造業労働者でおおよそ100〜150米ドル前後とされており、これはベトナムやインドネシアと比較しても2〜4割程度低い水準にあります。加えて、最低賃金は政府により抑制的に維持されており、雇用コストを戦略的に管理することが可能です。
さらに、人口約1億7,000万人を抱える同国では、若年層(15〜35歳)の比率が非常に高く、毎年数百万人規模で新たな労働力が供給される構造になっています。これにより、一定のスキルを持った製造現場要員の確保が容易であり、工場拡張や増産の柔軟性が高いという利点があります。アパレル業界で培われた労務管理や研修制度も応用可能で、他の製造分野への応用展開も進んでいます。
とくに、労働集約型の業種においては、こうした労働力の優位性がコスト競争力の源泉となり、長期的な製造体制の安定化にも寄与する点が評価されています。
外資への100%出資容認と税制インセンティブ
バングラデシュ政府は外資誘致に非常に積極的で、製造業を含む多くの分野で100%外資による法人設立を許可しています。外資企業は現地パートナーを介さずに独自で事業展開が可能であり、意思決定の自由度や利益配分の柔軟性が確保されている点が、他の南アジア諸国と比較しても優位です。
さらに、特定の地域や業種で進出する企業には、最大10年間の法人税免除、VAT(付加価値税)の免除、輸入関税の減免といった税制インセンティブが提供されます。とくに輸出加工区(EPZ)内で操業する場合は、土地利用料の優遇や電力・水道といったインフラ利用においても支援措置が用意されています。
これにより、初期投資コストを抑えつつ、事業の立ち上げを迅速に進めることが可能です。また、利益の本国送金に関しても制限が少なく、為替リスクを管理しやすい点も日本企業にとっては魅力的です。これらの制度的メリットを活用することで、長期的なキャッシュフローの安定と税務リスクの軽減が図れます。
LDC(後発開発途上国)特恵による関税優遇の活用
バングラデシュは現在、LDC(後発開発途上国)として国際的な貿易特恵を享受しており、EUやカナダなど多くの国で無関税または低関税の輸出枠が適用されています。この制度は、バングラデシュで一定比率以上の付加価値が創出された製品に適用されるもので、現地生産を行う企業にとって大きな輸出競争力をもたらします。
たとえばEU市場においては、EBA(Everything But Arms)と呼ばれる制度により、繊維製品や一部工業製品を含む輸出品目が関税ゼロで取り引きされています。日本とバングラデシュの間にも一般特恵関税(GSP)が適用されており、日系企業が現地で生産した製品を第三国へ輸出する際にも恩恵を受けることが可能です。
このように、バングラデシュ製造拠点の活用は、コスト削減だけでなく、輸出先市場での価格優位性確保にも直結します。将来的にバングラデシュがLDCを卒業する可能性も議論されていますが、EUは移行措置を検討しており、一定期間の特恵継続が期待される点も安心材料となっています。
インフラ・制度面の課題と対応の工夫
輸送インフラの整備状況と今後の改善見通し
バングラデシュの製造業が直面する課題の一つに、物流・輸送インフラの未整備があります。国内の道路網は依然として老朽化が進んでおり、都市部を除いては舗装状態の悪い道路や慢性的な渋滞が多く、工場から港までの輸送に時間とコストがかかるケースが少なくありません。とくに、最大の港であるチッタゴン港ではコンテナ取扱量が急増する一方で、港湾設備の能力拡充が追いついておらず、通関・積載待ちに数日かかることも珍しくないのが現状です。
こうした課題に対して、バングラデシュ政府はインフラ整備を国家戦略の柱として掲げています。特に中国の「一帯一路」構想のもとで進められている幹線道路の整備や、インド・日本の支援による輸送回廊(Bay of Bengal Industrial Growth Belt=BIG-B)の構築が進行中です。さらに、新たに整備中のパヤラ港や、ダッカ・チッタゴン間の高速鉄道構想など、長期的には物流環境の大幅な改善が期待されています。
製造業としては、立地選定の段階で港湾からの距離や輸送時間を慎重に評価し、できる限り輸送リスクを低減できる工業団地や都市近郊を選ぶことが現実的な対応策となります。
電力供給・通信環境の安定性とオペレーション上の工夫
製造拠点の安定運営にとって、電力供給と通信インフラの整備状況も重要な要素ですが、バングラデシュではこれらについてもまだ発展途上にあります。とくに地方都市では計画停電が頻発しており、生産ラインが一時的に止まるリスクがあります。また、インターネット接続についても一部地域では通信速度が遅く、デジタル制御やクラウド連携が求められる生産管理に支障をきたす可能性があります。
こうした環境下で操業する企業の多くは、自家発電設備(ディーゼル発電や太陽光など)の導入やUPS(無停電電源装置)の設置などにより停電対策を講じています。また、主要な工業団地では発電所や専用線の整備が進められており、EPZ内に入居することでこうしたインフラ整備の恩恵を受けることが可能です。
通信面においては、ダッカやチッタゴンといった大都市では4G回線の普及率も高く、企業向けの光回線サービスも選択肢が広がりつつあります。ICT導入を前提とした製造モデルを検討する場合は、通信環境の事前調査とプロバイダー選定を慎重に行うことが成功の鍵となります。
労務・契約・通関制度の複雑さと専門家の活用方法
制度面でのもう一つの課題は、法制度の運用の不透明さと、手続きの煩雑さにあります。バングラデシュでは、労働法や商取引契約、税務・通関に関する規定が整備されつつある一方で、実務レベルでは解釈の違いや書類不備によるトラブルも少なくありません。とくに日系企業にとっては、現地の行政機関とのやりとりが文化的・言語的な壁となる場合もあり、進出初期の運営には一定の慎重さが求められます。
たとえば、通関手続きでは、必要書類の形式や記載方法に細かなローカルルールが存在し、慣れていない企業が自己判断で輸出入を進めた結果、貨物の遅延や罰金が発生するケースもあります。また、労働契約においても、就業規則や解雇手当の取り扱いに現地独特の慣習があるため、日本の基準をそのまま適用することがトラブルの原因となりかねません。
このようなリスクを回避するためには、信頼できる現地の法律事務所や会計事務所、または日系支援機関との連携が不可欠です。実際、工業団地やEPZでは、これら専門家の紹介サービスが提供されていることもあり、外資企業のサポート体制は年々整備されつつあります。複雑な制度を正しく理解し、トラブルを未然に防ぐための体制構築が、長期的な事業成功の基盤となるでしょう。
相互関税時代の「製造拠点再設計」とバングラデシュの役割
ベトナム・タイなど従来拠点が直面する関税ショック
2025年4月に発表された米国の相互関税政策は、日系企業にとって既存の生産ネットワークに根本的な見直しを迫るものでした。ベトナムには45%、タイには36%という高関税が課され、中国からの輸出にいたっては最大54%に達する状況です。これは、従来「中国の代替地」とされてきたASEAN諸国も、米国市場向けの製造拠点としては価格競争力を大きく損なったことを意味します。
これまで「チャイナ+1」の文脈で成長してきたASEAN製造拠点は、米中対立下での“安全地帯”として期待されてきましたが、今回の措置によりその優位性が失われました。結果として、ベトナムやタイに工場を構える日系企業の中には、米国向けの輸出戦略を再構築せざるを得ない状況に追い込まれています。加えて、関税負担による販売価格上昇は、最終製品の競争力を著しく低下させ、米国内でのシェア縮小や買い控えを招くリスクも高まっています。
こうした背景のもと、日系企業は生産拠点の“第3の選択肢”として、バングラデシュをはじめとした南アジア諸国に注目を移し始めています。
サプライチェーンのデカップリングと“多極分散”モデル
従来型のサプライチェーンでは、生産・調達・組立が一つの地域に集約されていることが一般的でした。しかし、関税戦争や地政学リスクの高まりにより、この「集中型モデル」の脆弱性が顕在化しています。今、企業に求められているのは、サプライチェーンの“デカップリング(分離・複線化)”と“多極分散型”への移行です。
具体的には、米国市場向け製品とその他地域向け製品で、生産地や物流ルートを分離し、関税影響を局所化させる戦略が有効です。たとえば、中国・ベトナム拠点はアジア市場・欧州市場向け、インドやバングラデシュは米国市場向けといったように、リスクとメリットを見極めて地理的にサプライチェーンを分ける発想が必要になります。
こうした構造改革は短期的にはコストや管理工数が増える要因にもなりますが、長期的にはリスク耐性と経営の柔軟性を高める結果につながります。バングラデシュはその地理的位置、輸出志向型経済、そして現在のところ米国との摩擦が小さい点で、“対米生産拠点のバックアップ”として最適な立ち位置を占めつつあります。
米国向け回避策としての南アジア+インド洋戦略
今後、日本企業が米国市場へのアクセスを確保しながらも高関税を回避するためには、“南アジア+インド洋”を軸とした新しい戦略マップの再構築が必要です。ここで重要な役割を果たすのが、インド、バングラデシュ、スリランカ、モルディブといった南アジア諸国です。特にバングラデシュは、LDC特恵や低関税待遇を維持しており、すでに欧米ブランドからの信頼を築いている点で抜群のポジションにあります。
また、バングラデシュはインド洋に面し、今後インド・アフリカ・中東地域への輸出ハブとしての活用も視野に入れることができます。ダッカ〜チッタゴン〜コルカタの東西経済回廊、さらにはミャンマー・ベトナムとの接続性強化も計画されており、単なる「生産地」ではなく広域ロジスティクス拠点としての可能性も見えてきています。
このような地政学的・経済的な立ち位置を踏まえると、バングラデシュは“関税回避の緊急避難先”にとどまらず、将来的には南アジアとアジア全域をつなぐ戦略的ハブとしての価値を持つようになるかもしれません。日本企業にとって、今このタイミングでの進出検討は、中長期視点における競争力強化の布石といえるでしょう。
バングラデシュ製造拠点の活用で成功するには?
工業団地の選定ポイントと進出スキームの選択肢
バングラデシュに製造拠点を構えるうえで、最初に検討すべき重要な要素が工業団地の選定です。同国には政府系・民間系を含め多くの工業団地が整備されており、それぞれに異なる特色や制度が存在します。代表的なものには、BEPZA(バングラデシュ輸出加工区庁)が管轄するEPZ(輸出加工区)、Bangladesh Economic Zones Authority(BEZA)による経済特区、そして日本政府も関与するジャムナ工業団地(JICA支援)などがあります。
これらの団地では、法人税の減免、設備投資に対する優遇、土地の長期リース制度、行政手続きの一本化など、外資企業にとって魅力的な制度設計が整えられています。ただし、団地によってインフラ整備の水準や現地政府との関係性、入居企業の業種構成が異なるため、進出を成功させるには、自社の事業内容や成長計画に合った場所を慎重に選定することが重要です。
進出スキームとしては、100%外資による単独法人設立のほか、現地企業との合弁、既存の現地企業を活用した委託生産(OEM)などが考えられます。法務・税務のリスクやスピード感を考慮しつつ、初期段階ではスモールスタートで参入し、徐々に体制を拡充していく方法が推奨されます。
パートナー企業/支援機関との連携による障壁回避
バングラデシュへの進出では、制度や商習慣の違いに起因する「見えにくい障壁」を回避するために、信頼できる現地パートナーや支援機関との連携が成功の鍵を握ります。とくに言語・文化・法制度の違いが大きいため、単独での交渉や手続きはトラブルの温床となりがちです。
進出に際しては、JETROやJICA、商工会議所、あるいは日本人常駐の会計事務所・法律事務所などを通じて、信頼できる現地コンサルタントやパートナー企業を見つけることが望まれます。実際、多くの進出成功事例では、現地企業との緊密な連携により調達網の構築や従業員の採用・教育がスムーズに進んでいます。
また、バングラデシュ政府側も外資企業誘致に積極的で、入居手続きの簡素化やワンストップサービスの提供を進めています。これら制度をうまく活用するためにも、最新の現地情報にアクセスできる情報網の構築が不可欠です。現地パートナーの選定は、単なる「委託先」ではなく「共に成長する仲間」としての視点で行うことが、長期的な安定運営への近道となります。
米国・欧州・インド市場をにらんだBCP的な拠点戦略
バングラデシュ進出は、単なるコスト削減の手段にとどまりません。とくに注目されるのが、中長期的なBCP(事業継続計画)対策としての活用です。米国の相互関税政策や中東・東欧の地政学リスクが高まる中、グローバル製造業にとって「一国依存」から脱却し、リスク分散された供給網を構築することは経営の最重要課題となっています。
バングラデシュは、欧米市場向けの輸出拠点としての実績に加え、インドや中東との地理的な近さも活かして、広域サプライチェーンの一端を担うハブとしての活用が期待されます。たとえば、製品の一部をバングラデシュで製造し、インド市場で組み立て、米国や欧州へ出荷するといった“マルチステージ生産モデル”が現実的な選択肢となるでしょう。
また、LDC特恵を活用して関税ゼロでEUに輸出する一方、米国向けにも競争力を維持できるなど、複数市場を視野に入れた製造ポートフォリオの一翼を担う存在になり得ます。将来的に生産地の再編が進む中で、バングラデシュがその一角を担うことは、企業の持続的成長において非常に戦略的な布石となるはずです。
まとめ|「相互関税の時代」における次の一手としての選択肢
2025年に米国が発表した相互関税政策は、グローバル製造業の構造を根底から揺るがしました。とくに日本企業にとっては、これまでの中国・ASEAN拠点に依存した生産体制では米国市場での競争力を維持できず、サプライチェーン再構築の必要性が現実のものとなっています。
そうした中、相対的に関税リスクが低く、低コストな労働力を抱えるバングラデシュは、単なる“緊急避難先”を超えた戦略的製造拠点候補として注目されています。繊維をはじめとする輸出志向産業の基盤、外資への開放的な制度設計、南アジア市場や欧州向け輸出との相性など、今後のグローバル拠点分散の中核となり得る要素を多く備えています。
もちろん、インフラや制度面の課題は依然として存在しますが、それらを乗り越えるための支援体制も整いつつあります。日本企業は、コスト・地政学リスク・市場アクセスを総合的に見据え、中長期の視点から拠点再編の一手を打つことが求められています。バングラデシュ活用は、その選択肢の一つとして十分に現実的であり、今こそその可能性を真剣に見極めるタイミングといえるでしょう。
なお、「Digima~出島~」には、優良なバングラデシュビジネスの専門家が多数登録されています。「海外進出無料相談窓口」では、専門のコンシェルジュが御社の課題をヒアリングし、最適な専門家をご紹介いたします。是非お気軽にご相談ください。
本記事が、バングラデシュ進出・現地展開を検討される日本企業の皆様にとっての一助となれば幸いです。
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