海外展開の成功事例に学ぶ|熊本のブランド米が香港の最高級ホテルに選ばれた理由
ジェトロの調査によると、2026年度に海外売上高の「増加」を見込む日本企業は56.1%で、国内売上高(47.3%)を上回りました。海外拠点を持たない企業でも、45.3%が「今後新たに進出したい」と答えています(ジェトロ「2025年度 日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」)。
一方で、海外展開では日本でのやり方がそのまま通用するのはほぼ不可能です。国内で評判の商品を現地の展示会に出したものの商談が続かなかった、商社に任せたら価格競争に巻き込まれてしまった、という声もよく聞かれます。
熊本県のブランド米が香港の最高級ホテルに採用されるまでには、販路の選び直しや人脈の使い方など、いくつもの判断がありました。その過程をたどると、企業規模や商材を問わず自社の海外展開に持ち帰れる要点が見えてきます。
▼ 海外展開の成功事例に学ぶ|熊本のブランド米が香港の最高級ホテルに選ばれた理由
この記事でわかること
- 日本での成功体験が海外展開に当てはまりにくい理由
- 熊本のブランド米が香港の最高級ホテルに採用されるまでの過程
- 事例から見える3つの成功要因(物語・販路の順番・人脈)
- 自社の海外展開に生かすための3つのステップと注意点
- アジアでの販路開拓を専門家に相談するときの視点
1. 海外展開の成功事例から何を学ぶか
日本での成功事例が海外展開に当てはまりにくい理由
日本で売れている理由が、そのまま海外で通用するのはほぼ不可能です。買い手の好みや価格の感覚、流通の仕組み、守るべき法律や商習慣が国ごとに異なるためです。品質や機能の高さを前面に出す日本流の売り方も、品質・価格が同じ水準の商品が並ぶ市場では、決め手になりにくいことがあります。
国内でのブランド力や販売実績も、現地の買い手から見れば「知らない会社の一つ」にすぎない場合があります。成功事例を読むときは、日本でどれだけ売れたかではなく、海外の買い手が何を評価したのかに目を向けることが大切です。
企業規模を問わず押さえたい海外展開の重要ポイント
海外展開では、大企業か中小企業かを問わず、共通して押さえておきたい点が4つあります。誰に売るのかを絞り込むこと、現地の買い手に響く価値を言葉にすること、信頼できる現地の窓口や販路を確保すること、そして法規制や文化の違いを事前に確かめておくことです。
これらが欠けたまま進めると、資金や人員に余裕があっても成果にはつながりにくくなります。逆にいえば、規模が小さくてもこの4点を押さえれば勝負できるということです。後ほど紹介する事例も、まさにこの4点を一つずつ積み上げた結果といえます。
見るべきは結果ではなく「採用までの過程」
「〇〇に採用された」という結果だけを見ても、自社で何をすればよいかは分かりません。誰に、何を、どう伝えたのか。うまくいかなかったときに、何を見直したのか。そうした過程にこそ、自社でも再現できるヒントがあります。
本記事の事例でも、最初に選んだ販路では採用に至らず、狙いを切り替えたことが転機になりました。結果の華やかさよりも、採用に至るまでの一つひとつの判断に注目して読み進めてください。
2. 事例:熊本県のブランド米が香港の最高級ホテルに採用されるまで
事業者の概要と、海外展開前の課題
事例の主役は、熊本県菊池市を拠点に米を扱う事業者です。扱うのは、阿蘇の伏流水を水源とする菊池川流域で育った「菊池米」。この流域では弥生時代から約二千年にわたって米づくりが続き、江戸時代には流域を中心産地とする肥後米が「天下第一の米」と呼ばれ、将軍の御供米に用いられたといいます。この米づくりの歴史を伝えるストーリーは、2017年に文化庁の「日本遺産」に認定されました。第三者機関による残留農薬や重金属などの検査を行い、結果を順次公開している点も特徴です。
生産者が弊社に相談したのは、熊本の米のブランド力を高めるために、海外の富裕層向けのレストランやホテルで販売したいという目的からでした。それまでは米国のAmazonで個人向けに販売していたものの、ホテルや飲食店などの法人向けの販路は開拓できていなかったのです。
なぜ香港、なぜ高級ホテルだったのか
最初の市場に香港を選んだ理由は2つあります。1つは富裕層が多いこと。もう1つは、弊社代表の亀田が香港に4年弱住んでいた経験があり、現地の飲食店に豊富な人脈を持っていたことです。
売り先については、事業者側の「富裕層向けのミシュラン星付きレストランや5つ星ホテルで売りたい」という要望を踏まえ、最初からそこに絞って開拓を進めました。量販店や一般の飲食店に広く当たるのではなく、ブランド力を高めるという目的に合う相手だけを狙ったわけです。
結果として採用に至った香港の最高級ホテルは、ちょうど開拓を進めていた時期に日本食の刷新を図ろうとしていました。亀田が料理長と話す機会を得て菊池米の背景にあるストーリーを伝えたところ、料理長がその物語に感銘を受け、受注につながりました。
料理長への試食提案から採用までの流れ
もっとも、最初から順調だったわけではありません。亀田はまず、もともと知り合いだった飲食店のシェフ10名ほどに米を持ち込んで営業しました。評価はいずれも「おいしい」というものでしたが、各店にはすでに使っている米があり、その生産者との関係やディストリビューターの見直しも伴うため、簡単には切り替えられないという反応でした。
リサーチを進めるなかで、個人店では発注量もそれほど多くないことが分かってきました。そこで、複数のレストランでさまざまな種類の米を使い、発注量も多いと考えられるホテルへと狙いを切り替えます。大学の同窓会のつながりを通じて5つ星ホテルのシェフを紹介してもらい、そこから5つ星ホテルへの横展開が始まりました。
香港の最高級ホテルでは本社の決裁が必要だったため、料理長の了承を得てから実際の発注までに半年ほどかかりました。その結果、販路開拓の期間は全体で1年以上に及んでいます。
採用後の成果と現在の取り組み
採用後、香港の最高級ホテルからは3か月に一度のペースで発注が続いています。菊池米は宿泊者向けの朝食ブッフェで使われ、利用期間はすでに1年半ほどになります。
最高級ホテルが使っているという実績は、ほかの店への提案でも後押しになりました。現在では、ほかの日本食レストラン数社でも菊池米が使われています。輸送は、日本からの輸出を手がけてきたディストリビューターに依頼し、福岡港からコンテナで送る体制をとっています。継続的な発注に応えられる物流を、専門の担い手と組んで確保している点も見逃せません。
3. この事例から見える3つの成功要因
①「日本の米」ではなく、産地と生産者の物語で売る
事例で最初に営業したシェフたちは、すでに別の米を使っていました。香港の飲食店にとって、日本の米は「新しいもの」ではないということです。「日本の米だからおいしい」という訴求だけでは、今ある仕入れ先を変える理由にはなりません。
違いを生んだのは、二千年続く米づくりの里、日本遺産に認定された歴史、阿蘇の伏流水といった産地と生産者の物語でした。最高級ホテルの料理長が心を動かされたのも、品質の説明ではなくこのストーリーです。食材の背景をお客様に語れるかどうかは、高級ホテルやレストランにとって料理の価値を左右する要素になりえます。
②最初の販路を一流ホテルに絞り、評価を後押しにする
事例では、知り合いのレストランへの営業が切り替えの壁に阻まれたあと、発注量が多く複数の店舗で米を使うホテルに狙いを移したことが転機になりました。売り先の特徴を見極め、相手の事情に合う販路を選び直したことが成果につながっています。
さらに、一流ホテルに採用された実績は、ほかの日本食レストランへの提案の説得力になりました。最初から量販店を狙うと価格で比較されやすくなります。どこから売り始めるかという順番を意識することが、販路を広げるだけでなく、ブランドの価値を守ることにもつながります。
③現地の人脈を持つ担当者が直接届ける
高級ホテルの料理長に、面識のない海外の事業者がいきなり会うのは簡単ではありません。事例でも、香港に住んだ経験を持つ弊社代表が知人のシェフに直接持ち込み、さらに大学の同窓会のつながりをたどって5つ星ホテルのシェフとの接点をつくりました。
信頼できる人からの紹介は、商談の入口そのものを開きます。そのうえで実際に商品を手に取り、口にしてもらう場をつくることが、良さを伝えるいちばんの近道です。人脈は年単位で築かれるものであり、自社だけで一から用意するのが難しい場合は、すでに現地につながりを持つパートナーの力を借りることも選択肢になります。
4. 自社の海外展開に生かす3つのステップ
①自社商品の「現地で響く価値」を言葉にする
日本国内で評価されている点が、そのまま海外で響くのはほぼ不可能です。まずは、現地の買い手が何を重視するのかを考え、産地・製法・作り手のこだわりのうち、どこを前面に出すかを決めておくことが重要です。
ポイントは、スペックの説明ではなく「なぜこの商品なのか」を一言で語れるようにすることです。事例の菊池米も、味の良さだけでなく、二千年の歴史と日本遺産という背景があったからこそ選ばれました。自社にとっては当たり前の背景が、海外の買い手には新鮮な価値に映ることもあります。社内だけで判断せず、現地の目線で見直してみることをおすすめします。
②最初に攻める国と販路を1つに絞る
複数の国に同時に手を広げると、準備も費用も分散してしまいます。まずは1つの国、1つの販路で実績をつくり、そこから広げていくほうが確実です。
国を選ぶときは、市場の大きさだけでなく、自社の商品を求める買い手がいるか、現地につながりを持てるかといった点もあわせて考えます。事例でも、富裕層が多いことと、弊社代表の人脈があることの両方が香港を選ぶ理由になりました。1つの地域で勝ちパターンを確立できれば、同じ型をほかの国や販路に横展開しやすくなります。
③注意点・リスクへの対応を先に設計する
商談がまとまっても、輸出や販売の段階で思わぬ壁にぶつかることがあります。今回の香港向けの米では大きな障壁はありませんでしたが、商材や国が変われば事情も変わります。たとえば医薬品や機械など法規制に関わる商品では、国ごとに必要な許認可や手続きが異なる場合があります。マレーシアなどイスラム教徒の多い国では、食品や化粧品でハラル認証(イスラム教の戒律に沿っていることの認証)を求められる場面もあります。
さらに、国によっては避けたほうがよいとされる色や表現があるなど、文化面の配慮も欠かせません。どのような点に注意が必要かは商材と国によって大きく変わるため、提案を始める前に注意点と対応策を洗い出しておくことが大切です。継続して届けるための輸送手段も、事例のように専門のディストリビューターと組むなど、早い段階で見通しを立てておくと安心です。
5. アジアでの販路開拓を支援する弊社の取り組み
現地の人々に突き刺さるストーリーのデザイン
品質や価格が同じ水準の商品が並ぶ市場では、機能面の訴求だけでは買い手の心は動きにくいものです。弊社は、現地バイヤーの合理性と感情の両面に響く型をもとに、商材の背景・技術力・作り手の思いを組み立て、「だれに・なにを・どこで・いつ」伝えるかを国ごとに設計し直します。
このストーリーは机上の想定ではなく、実際の現地商談で何が響き、何が響かなかったかを積み重ねてきた結果に基づくものです。本記事の事例でも、ブランド米の背景にある物語が料理長の心を動かし、採用につながりました。
東・東南アジアの現地ネットワークを生かした販路開拓
弊社は、香港・台湾・韓国・シンガポール・タイ・マレーシアの東・東南アジア6地域を中心に、日本企業の販路開拓を支援しています(アメリカ・カナダなどにも対応)。弊社代表の亀田自身の長年の現地在住経験を通じて築いたネットワークを基盤に、現地の代理店・卸・小売への商談を設定し、経営者クラスへの直接のアプローチを軸に進めます。
弊社はこれまでに、香港では高級ドライヤーを美容院や家電量販店へ、タイではセカンドハンド品を小売店へ、韓国ではアパレルを現地の卸へと、食品以外の分野でも販路を開拓してきました。
初期開拓成功率90%以上の伴走型の支援
弊社の支援は、提案・契約、現地に訴求するストーリーのデザイン、1地域での開拓とチューニング、他地域への水平展開という流れで、一気通貫で進めます。1地域で勝ちパターンを確立したあとは、同じネットワークを使ってほかの地域へ広げ、売上を継続的に積み上げていく考え方です。
こうした支援による初期開拓の成功率は90%以上です。本記事で取り上げた事例のように、商品の魅力をどう現地に届けるかという入口から一緒に考えることが可能です。
6. よくある質問(FAQ)
Q1. 小規模な事業者でも、海外の高級ホテルに商品を提案できますか?
可能性は十分にあります。本記事の事例も、地域の米を扱う事業者が香港の最高級ホテルに採用されたものです。大切なのは会社の規模ではなく、商品の背景を伝わる言葉にすることと、料理長などの意思決定者に会える経路を確保することです。
Q2. 海外での販路開拓には、どのくらいの期間がかかりますか?
商材や相手先によって大きく異なります。本記事の事例では、料理長の了承から本社決裁を経て発注まで半年ほどかかり、全体では1年以上を要しました。大手ホテルなどは社内の承認手続きがあるため、時間がかかる前提で計画を立てておくと安心です。
Q3. 最初に進出する国は、どのように選べばよいですか?
市場の大きさだけで選ぶのではなく、自社の商品を求める買い手がいるか、現地につながりを持てるかをあわせて考えることをおすすめします。まずは1つの国・1つの販路で実績をつくり、そこで確立した型をほかの国へ広げていく進め方が堅実です。
Q4. 輸出の手続きや物流は、すべて自社で行う必要がありますか?
必ずしも自社だけで担う必要はありません。本記事の事例でも、日本からの輸出を手がけてきたディストリビューターに依頼し、福岡港からコンテナで送っています。輸送や通関は専門の事業者と組み、自社は商品づくりと提案に力を注ぐという分担も選択肢です。
7. まとめ
熊本県のブランド米が香港の最高級ホテルに選ばれた背景には、産地と生産者の物語で売ったこと、うまくいかなかった販路を見直して一流ホテルに狙いを絞ったこと、現地の人脈を持つ弊社代表が直接届けたことがありました。いずれも、企業の規模にかかわらず取り入れられる考え方です。
自社の商品にも、海外で選ばれる理由が眠っているかもしれません。まずは商品の背景を言葉にし、最初に攻める国と販路を1つに絞り、注意点を先に押さえておくことから始めてみてください。具体的な進め方を詰める段階では、現地の事情に通じた専門家の知見を借りることで、遠回りを減らせます。
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