はじめてのフィリピン進出ガイド|会社設立・税制優遇・駐在員ビザを解説【2026年版】
こんな方向け:
フィリピンへの進出を初めて担当する方/まず全体像をつかみたい方/専門家に相談する前に基礎を押さえたい方
▼ はじめてのフィリピン進出ガイド|会社設立・税制優遇・駐在員ビザを解説【2026年版】
この記事でわかること
- 外国の会社が、フィリピンの会社にどこまで出資できるか
- 税金が安くなる「投資優遇」とは何か、どうすれば受けられるか
- 日本から社員を送るとき、どんな許可が必要で、どのくらい時間がかかるか
ポイント
進出は「①会社をつくる → ②税金の優遇を申し込む → ③駐在員の許可をとる」の3ステップで考えると整理しやすくなります。とくに、③は数か月かかるため、着任させたい日から逆算して早めに動き出すのがコツです。
全体像:進出は3つのステップで考える
①と②は同時に検討を進められます。③は、雇用主になる現地法人の登録が済んでから本格的に始まります。②の優遇登録は③の必須条件ではありませんが、優遇を受ける会社は③で追加の書類(後述の技術移転計画)が必要になる場合があります。
図 1: 3つの手続きの関係(実線=前提になる手続き、点線=内容をそろえる関係)
まず覚えたい用語ミニ辞典
ステップ1 会社をつくる:外国企業は何%まで出資できる?
基本の考え方:「リストにない業種」は100%出資OK
フィリピンは、外国企業の出資を制限する業種だけをリスト(ネガティブリスト)にまとめる方式です。リストに載っていない業種なら、原則として日本企業が100%出資する子会社をつくれます。最新版は2026年5月2日に施行された「第13次ネガティブリスト」(大統領令第113号)です。2022年版の資料を見ている場合は、最新版で確認し直しましょう。
主な業種の出資上限(早見表)
※電気通信は、投資家の本国がフィリピンの投資家を同じように受け入れている(相互主義がある)場合は100%まで、そうでない場合は50%までです。日本が該当するかを含め、最終判断は個別の確認が必要です。
資本金の目安:国内向けビジネスは要注意
- フィリピン国内の顧客向けに売る事業(国内市場向け)で、外国企業の出資が40%を超える場合は、原則として資本金USD 20万(約3,000万円)以上が必要です。
- 先端技術を使う事業、認定スタートアップ、フィリピン人の直接雇用が過半数かつ15人以上の事業は、USD 10万に下がります。
- 売上の60%以上を海外に輸出する会社は、この資本金ルールの対象外です。
- 小売業は別ルールで、100%出資するには払込資本金PHP 2,500万以上が必要です。
※円換算は1ドル=150円前後での目安です。
会社の形を選ぶ:現地法人・支店・駐在員事務所
フィリピンに拠点を置く形は、主に3つです。フィリピンで売上を立てるなら、現地法人か支店を選びます。
- 現地法人の会社秘書役(コーポレート・セクレタリー)はフィリピン国籍の居住者、財務役(トレジャラー)はフィリピン居住者でなければなりません。現地で信頼できる人を早めに探しましょう。
- 支店と駐在員事務所は、SECからの通知などを受け取る現地の居住代理人(レジデント・エージェント)を置く必要があります。
土地は「買う」より「借りる」
外国企業が出資する会社は、土地を所有できない(出資40%以下の会社を除く)のが原則です。その代わり、2025年の法改正(共和国法第12252号)で、外国投資家が私有地を借りられる期間が最長99年まで延びました(これまでは50年+更新25年)。ただし、投資案件として登録されていることなどが条件で、リース期間は投資事業の継続が前提になります。工場や倉庫の用地は、長期リースで確保するのが一般的です。
ポイント
最初に「自社の事業はどの業種に当たるか」「国内向けか輸出か」をはっきりさせましょう。出資できる比率も、必要な資本金も、この2つで決まります。
ステップ2 税金の優遇を受ける:PEZAとBOI
そもそも投資優遇とは?
フィリピンの法人税は原則25%です(小規模な会社は20%)。政府が「来てほしい」と考える事業に投資する会社は、PEZAやBOIに登録すると、法人税の免除や軽減、輸入関税の免除などを受けられます。この仕組みを定めているのがCREATE法(2021年)と、それを拡充したCREATE MORE法(2024年)です。
PEZAとBOI、どちらに登録する?
優遇の中身(シンプル版)
- 一般的な案件の優遇期間は、ITH(4〜7年)とその後のSCITまたはEDR(10年)を合わせて最長17年です。「最長27年」は、投資額PHP 150億を超える超大型案件の話です。
- ITHを使わずに、最初からSCITかEDRを選ぶこともできます(国内向け企業はEDRのみ)。
- 一度選んだSCITとEDRは、優遇期間の途中で変更できません。数年分の収支計画で比べてから選びましょう。
優遇を受けられるかの目安
対象になる業種は、2026年6月に公表された「2026年版SIPP」で決まります。AI・データセンター、半導体・電子部品、再生可能エネルギー、IT・コールセンター、ゲーム・アニメ制作などが含まれ、さらに製品やサービスの70%以上を輸出する事業も対象です。
ポイント
「輸出比率」は、ステップ1とステップ2の両方で有利になる共通のカギです。売上の60〜70%以上を輸出できる事業計画なら、100%出資と税の優遇を同時に狙いやすくなります。ただし「輸出企業」の基準は制度ごとに少しずつ違うので、それぞれの定義を確認しましょう。
ステップ3 駐在員を送る:AEPと9Gビザ
必要なのは「2つの許可」
日本人社員がフィリピンの現地法人で働くには、原則として次の2つが必要です。
9Gビザは会社と役職にひもづいています。有効期間は雇用契約に合わせて1〜3年で、転職するときは取り直しが必要です。配偶者と21歳未満の未婚の子どもは、家族としてビザを申請できます。
役員として赴任する場合:AEPの「除外」になるのは、議決権を持つ取締役として取締役会に参加するだけの人や、会社に出資している社長・財務役などに限られます。この場合はAEPの代わりに除外証明書(手数料PHP 2,000)を取ります。それ以外の役員は、新聞の求人広告は不要になりますが、AEPは必要です。どちらの場合も9Gビザは別に必要です。
手続きの流れ(5ステップ)
- 雇用主になる現地法人の登録(SECなど)を済ませ、雇用契約の内容を決める
- 新聞に求人広告を出す(「フィリピン人で代わりになる人がいないか」を確かめる手続き)。広告から15日以上たってかAEPを申請できる。広告の有効期間は45日なので、その間に申請する
- 雇用契約を結んだ日から15日以内に、AEPをオンラインで申請する(遅れると会社と本人それぞれに最大PHP 1万の罰金)
- AEPの審査を待つ(手数料を払ってから15営業日が基本)
- 入国管理局に9Gビザを申請する。審査中に働き始めたい場合は、PWP(暫定就労許可)を取る。なお、AEPの申請は本人が日本にいる段階から始められるが、AEPカードは本人が就労用のビザで入国した後に交付される
期間と費用の目安
2026年に変わったこと
- 2026年6月から、AEPの手続きは労働雇用省本省の雇用局(BLE)に一本化されました。地方事務所では受け付けていません。
- 2026年9月3日からは、AEPの申請も支払いもオンラインのみです。メールや窓口への持参はできません。
- 税の優遇を受ける会社などは、フィリピン人社員に技術を引き継ぐ計画(技術移転計画)を出す必要があります。
PEZAの会社なら「PEZAビザ」という選択肢も
PEZAに登録した会社の外国人社員は、9Gの代わりに「PEZAビザ」(最長2年・更新可)を使えます。こちらも原則としてAEPが必要です。2026年8月からは、AEPの審査中でもPEZAビザを申請できる暫定措置がとられています。
着任したあとも続く手続き
- AEPの更新:有効期限の60日前から申請できます。受付が始まったらすぐ着手しましょう。
- 年次報告:外国人登録証を持つ人は、毎年1月1日から60日以内に入国管理局へ報告します。
- 税金と社会保険:駐在員の納税者番号(TIN)を取り、給与から所得税を源泉徴収します。フィリピン人社員を雇う会社は、SSS(社会保障)・PhilHealth(医療保険)・Pag-IBIG(住宅積立)への登録も必要です。
- 日比社会保障協定:日本からの派遣期間が5年以内の見込みなら、日本の年金制度に加入したまま、フィリピンのSSS(年金)への加入を免除される仕組みがあります。日本の年金事務所で「適用証明書」を取っておきましょう。ただし対象はSSSだけで、PhilHealth(医療保険)は免除されません。なお、Pag-IBIG(住宅積立)は、2019年から外国人の加入義務がなくなっています。
- 労災への備え:SSSが免除されると、フィリピンの労災補償も受けられません(労災の仕組みがSSSと一体のため)。日本の労災保険の「海外派遣者特別加入」か、民間の保険で備えましょう。
- 昇進・役職の変更:新しい役職でAEPを取り直し、9Gビザの延長手続きをします。
- 退職・帰任:AEPの取消し、9Gビザの取消し、出国の手続きが必要です。
ポイント
「来月から駐在させたい」は、ほぼ間に合いません。着任させたい日の半年ほど前には、会社の設立と求人広告の準備を始めるのが安全です。
よくある質問
Q.出張で会議や商談をするだけでも、ビザは必要ですか?
A.日本人は観光・商用(会議、商談、セミナー参加など)の目的なら、ビザなしで最大30日間滞在できます。30日以内に出国する航空券が必要で、パスポートは残存期間6か月以上を用意しておくと安心です(公式情報でも表記が分かれるため)。また、入国72時間前からの「eTravel」へのオンライン登録(無料)が必要です。ただし、現地で報酬を得て実際に業務をすると「就労」にあたり、許可が必要になります。どこまでが出張の範囲かは、事前に専門家に確認しましょう。
Q.100%日本資本の会社はつくれますか?
A.ネガティブリストに載っていない業種なら可能です。ただし国内向けの事業では、原則USD 20万以上の資本金が必要です。
Q.税の優遇は必ず申し込んだほうがいいですか?
A.必須ではありません。優遇を受けると税金は下がりますが、対象業種の条件や報告義務、技術移転計画などの手間も増えます。事業規模と比べて判断しましょう。
Q.駐在員は何人まで送れますか?
A.決まった人数の上限はありません。ただしAEPの審査では、1人ごとに「なぜフィリピン人では代わりにならないのか」を説明する必要があります。
Q.家族も一緒に連れて行けますか?
A.配偶者と21歳未満の未婚の子どもは、家族としてビザを申請できます。結婚証明書や出生証明書などの書類準備に時間がかかるので、早めに用意しましょう。
はじめてのチェックリスト
☐ 自社の事業が、最新(第13次)ネガティブリストで何%まで出資できるか確認した
☐ 国内向けか輸出向けかを整理し、必要な資本金を計画に入れた
☐ 現地法人・支店・駐在員事務所のどれで進出するかを決め、会社秘書役(フィリピン国籍の居住者)などの人選を始めた
☐ 工場や倉庫の用地を、買うのではなく長期リースで確保する方法を検討した
☐ PEZAとBOIのどちらが合うか、そもそも優遇を使うかを検討した
☐ 2026年版SIPPで、自社の事業が優遇の対象か確認した
☐ 駐在員の着任希望日から逆算して、半年ほど前に準備を始める計画にした
☐ 求人広告 → 雇用契約 → 15日以内のAEP申請、という段取りを組んだ
☐ 役員として赴任する人が、AEPの「除外」に当たるか確認した
☐ 着任後の更新(60日前から)・年次報告・帰任時の手続きの担当者を決めた
☐ 日比社会保障協定の適用証明書(SSSのみ免除)、PhilHealthへの加入、労災の備え、駐在員のTIN取得を確認した
まとめ
ご相談ください
「自社の業種は何%まで出資できるか」「どの優遇が使えるか」「いつ駐在員を着任させられるか」の初期診断だけでも、お気軽にお問い合わせください。会社設立から税制の比較、ビザ取得のスケジュールづくりまで、まとめてサポートします。
※本記事は2026年10月時点で確認できる情報にもとづく一般的な解説で、個別案件の法務・税務上の助言ではありません。法令・手数料・運用は変わることがあるため、実際の手続きでは関係機関(SEC、PEZA、BOI、DOLE、BIなど)の最新情報と専門家の確認をお取りください。
主な出典
- Cruz Marcelo:第13次ネガティブリスト解説
- Lawphil:大統領令第113号(第13次ネガティブリスト)
- Divina Law:外国投資法の改正(最低資本金)
- Quisumbing Torres:投資家リース法の改正(最長99年)
- PwC:フィリピンの法人税率
- PwC:CREATE MORE法の概要
- Manila Bulletin:2026年版SIPPの優先分野
- DOLE:AEPのよくある質問(手数料・期限)
- BAL:AEPのオンライン申請化とPEZAビザの暫定措置
- Emerhub:9Gビザの処理期間の目安
- Fragomen:PWP(暫定就労許可)の有効期間
- 入国管理局(BI):9Gビザの公式案内
- 共和国法第12252号(投資家リース法の改正・99年)
- One Asia Lawyers:DOLE省令第248号(広告の有効期間・申請期限)
- NDV Law:現地法人・支店・駐在員事務所の要件
- 外務省:日・フィリピン社会保障協定
- 在日フィリピン大使館:無査証短期滞在
- 日本年金機構:日・フィリピン社会保障協定の注意点(労災)
- NDV Law:AEPが除外される役員の範囲
- Grant Thornton:CREATE MOREの優遇(ITHを使わない選択肢)
- DOLE省令第248号 本文(罰金は最大PHP 1万)
- PwC:Pag-IBIG Circular No. 421(外国人の加入義務の廃止)
- KPMG:eTravel登録の義務化
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