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フィリピン経済の成長ポテンシャルと課題 《野村総研・上級コンサル岩垂好彦氏が徹底解説!》【前編】

掲載日:2018年10月05日

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日系企業も多数進出するフィリピン。その経済成長のポテンシャルと、今後の課題について、野村総合研究所にて上級コンサルタントを務める、岩垂好彦氏にお話をうかがいました。

中長期的に見て、ASEAN諸国の中でも、もっとも高い成長ポテンシャルを誇るフィリピン。その著しい経済成長を支えている各要因について、現地にて様々なコンサルティング業務を行ってきた岩垂氏に、フィリピン進出を画策する日系企業の視点で、詳しく解説していただきます。

インタビュアーはフィリピンの「ミンダナオ日本人商工会会頭」の三宅一道氏。三宅氏は、フィリピン・ダバオにて起業支援・コンサルティング事業などを行っている株式会社クリエイティブコネクションズ&コモンズの取締役(Founder)でもあります。

1. 高い経済成長を誇るフィリピンだが、まだ人口ボーナス期に入っていない…!?

フィリピンが人口ボーナス期に突入するのは2050年以降

三宅: 今回は野村総合研究所の上級コンサルタント、岩垂好彦様をお迎えして、フィリピンの成長ポテンシャルと課題についてお話しいただきます。岩垂様、お忙しい中お時間をいただきまして、誠にありがとうございます。

岩垂: 本日はよろしくお願いいたします。私は2004年ごろからフィリピンの投資環境、産業政策、地域開発や人材育成などの政策提言、また民間企業の現地での事業コンサルティングなどを行ってきました。大都市のみならず、島しょ部や地方都市なども多数訪問してきております。

三宅: 私は2001年からフィリピンにおりますが、ほとんどがミンダナオ島のダバオ市での活動で恐縮です。今回はフィリピン全体のお話をお聞きしたいと思います。

それでは早速ですが、ASEANにおけるフィリピン経済の成長ポテンシャルについてお聞きします。私自身も現在のフィリピンの成長は著しいものがあると感じておりますし、ここ数年の成長に関してはセミナーや文献などである程度把握していますが、まずは成長の背景からお話いただけますでしょうか。

岩垂: フィリピンはASEAN加盟国の中で最も中長期の「成長ポテンシャル」の高い国であるといえます。フィリピンには内需主導、しかも持続的成長に向けた高いポテンシャルがあると考えられます。

理由としては、ASEANの将来の人口シェアを見ると、2050年までタイ、ミャンマー、ベトナムで減少し、フィリピンがその分を吸収して増加するというかたちになっています。若くて増え続ける人口の消費意欲は高く、インフレも適度に管理され、長期にわたる持続的成長可能性が高いと言えます。

フィリピンの高いGDP成長の説明に「人口ボーナス」という言葉がよく使われるのですが、下図を見ていただきますと、実はフィリピンはまだ「人口ボーナス期」に入っていません

図1

三宅: 私も人口ボーナスだと聞いてきて、「人口ボーナス期」という言葉をよく使っていました。お恥ずかしい限りです(笑)。これを見ると2050年ごろなんですね。

岩垂: そうなんです。フィリピンが人口ボーナス期に突入するのは2050年以降なのです。現在のフィリピンは「人口ボーナス期」に突入していないのに、高成長を実現しているんです。

人口ボーナス期は15歳から65歳までの「生産年齢人口」が、子供と高齢者の「従属年齢人口」に対して2倍以上の状態を指すのですが、フィリピンはまだ、1.8程度です。この面から見ても、フィリピンの高いポテンシャルを感じてもらえるかと思います。

フィリピン地方都市での消費が伸長

三宅: 先程、内需主導型の成長とおっしゃいましたが、フィリピンの国内マーケット自体の成長で、特に伸びている分野というのはどのあたりになるのでしょうか。

岩垂: 消費財は全般的に伸びているようです。自動車は、税制の変更によってやや伸びが鈍化したようですが、需要が減退しているわけではなく、持続的に伸びていくものと思われます。東南アジアの他の国と比べても、地方における消費が活況であることも、フィリピンの特徴だと思います。すべての地方都市というわけではありませんが、IT/BPOが展開し、消費の伸びているような地方都市が多数あります。

2. フィリピン経済における消費を後押しするファクターとは?

フィリピンでは月収20,000ペソ以下は所得税が課税されない

三宅: データを見ていないのであくまで感覚値でしかないのですが、人口の消費意欲の高さを裏付けるひとつの事実として、都市部でのモールの賑わいや、地方都市でのショッピングセンターの建設ラッシュがあると思います。ミンダナオ島のザンボアンガ市では昨年ショッピングセンターが建設されたときに、初週の売上が3億ペソを超えたと聞いています。

また今回、税制改革措置の関係で月収が20,000ペソ以下の場合には所得税が課税されないという制度が施行されました。こういった動きがさらに消費者の購買意欲を高めるのではないかと。さらに、消費を後押ししているファクターとして全体的に所得が上がっていて、低所得層が中間層に移行してきているということがあるのではないかと思うのですが、いかがでしょうか?

岩垂: 詳細に検証したわけではありませんが、所得の上昇は必ずしも全国均一的にみられるものではなく、まだら模様ではないかと思います。先ほど申し上げた通り、IT/BPOが展開しているような地方では、中間所得層も形成されつつあると思いますが、1億人を超える人口全体を見渡すと、まだごく一部のことです。逆に言えば、まだ大きく伸びる余地が残っているということだと思います。

3. フィリピンにおける人件費は5年後、10年後にどうなる…?

フィリピン現地における賃金水準はいまだ横ばい

三宅: なるほど、今後が楽しみですね。成長ポテンシャルに関して、事業環境としてはどうでしょうか。賃金などについても言及していただけるとありがたいです。

岩垂: はい。フィリピンが高いポテンシャル持っているというふたつ目の理由として、安定的で良好な操業環境であるということが挙げられます。

賃金に関しては、例えばインドネシアの人件費はこの5年で4.4倍、ベトナムも2.3倍に高騰しているのに、フィリピンでは、5年で15%伸びたものの、他国に比べればほぼ横ばいで、賃金水準が安定しています。

これは、フィリピンがまだまだ、労働集約産業の立地などにも引き続き可能性があることを示しています。

三宅: 人件費に関してはむしろ直球でお聞きしたいのですが、フィリピンの人件費は5年後、10年後どのくらいになっているとお考えでしょうか?

これは分野によっても違うでしょうし、誤解を恐れずに言えば、例えばIT業界などは恐らくどの分野よりも速い速度で賃金の世界標準化に近い状態が生まれるのではないかと考えています。AIの台頭や仮想通貨などを考慮すると、IT産業全体として地域に価格差が存在するのはあと10年、長くても20年くらいなのではないかと。すこし強引な発想ですが(笑)

それはさておき、あくまで予測の範囲で構いませんので、フィリピンのこれからの人件費について教えていただければありがたいです。

岩垂: フィリピンだけを見れば、人件費は伸びていくと思われますが、周辺国との相対的な比較の中では、安定的な伸びを実現するのではないかと考えています。フィリピンはまだまだ若い人が労働市場に参加してくるということ、また生まれ育った土地以外にも積極的に出稼ぎに行く人が多いので、製造業でもITでも労働供給は十分にあると思われます。

IT産業の価格差が埋まるかどうかは、今後の労働生産性次第だと思います。インドのように業務内容が高度化し、設計開発やエンジニアリング関連サービスまで引き受けるようになってくると、徐々に相対的な価格差が縮小するでしょう。

また、ミャンマーやバングラデシュなどより低賃金な国が台頭する可能性もあり、能力や生産性によって賃金が決まってくると思われます。

図2

労働力が豊富なフィリピン経済

三宅: 国際的な価格差もありますが、フィリピン国内でも地方と大都市ではだいぶ賃金が違いますね。最低賃金ももちろん地域ごとに定められていますし。

岩垂: そうですね。ただフィリピンでは地方の人々も、より有利な就職場所を求めて都市部や海外にも就労の機会を探しています。タイやベトナムは失業率が低く、従業員の確保や維持が難しいのですが、フィリピンは労働力が豊富で、労働市場に毎年多くの労働供給があります。

三宅: これは地方都市に住んでいる私としては特に顕著に感じます。業界格差はあるとは思いますが、IT系の場合、地方都市であるセブ、マニラをなどで就職先を見つけた後に、数年でシンガポール、オーストラリア、ニュージランド、アメリカなどの企業に転職するという話をよく聞きます。

岩垂: 中東にも多数のフィリピン人がいて、Jollibee(ジョリビー=フィリピン有数のファストフードチェーン)や超群(チョーキン=フィリピンで人気の中華系ファストフードチェーン)も現地に進出していますね。フィリピン人は算数が苦手という人がよくいますが、一方でアメリカの初中等教育の理数系の先生にはフィリピン人が結構いるようです。英語力のおかげで、世界中で活躍していますね。

4. フィリピン経済を支える内需と外需の双方の成長

フィリピン進出を果たした日系企業の動向について

三宅: ヨーロッパに出張に言ってもフィリピン人を見かけます。やはり内需が成長していると言っても出稼ぎの動きはどんどん拡大しているようですね。さて、フィリピンでは、その内需成長によって、今後も成長が十分に見込めるということが理解できたのですが、日系企業の動向はいかがでしょうか?

岩垂: 日系企業について話をするならば、フィリピンは、既進出企業の利益見通しで黒字の企業の割合が非常に高く、アジア・オセアニアにおいて黒字企業の割合が77.5%で、韓国に次いで第2位となっています。

図3

三宅: フィリピンでは外資規制緩和が進む方向で熱気を帯びていますが、この黒字率は輸出型、国内型企業のどちらが、おもに牽引しているでしょうか。これまでは輸出型企業が主に日系企業の成長を支えてきたと認識しています。

岩垂: 両方だと思いますが、量的には輸出企業の割合のほうがまだ多いのではないかと思います。国内型企業については、中間所得層の規模や立地をうまく見定められなかったり、日本企業としてのブランド価値を十分に発揮できずに苦労したり、撤退された企業もあります。まさに「これからの市場」なので、中長期の視点が必要ではないかと思います。

輸出型企業は、PEZA制度(※PEZA=フィピン経済特区庁 / Phillipine Economic Zone Authority)に支えられて安定した事業運営ができていると思います。このため、今後もPEZA制度を実質的に維持していくことが、フィリピンとしては重要だと思います。

フィリピン地方都市における成長のポテンシャルとは?

三宅: PEZA制度に関しては、現在政府から優遇措置を撤廃するというような案が出ていますよね。これには日本人商工会含め、多くの外国人商工会から政府に対して意見書が提出されています。恐らく完全撤廃というような暴挙には出ないと思いますが、どこに落ち着くのか非常に注目しています。さて、地方都市の賃金格差についてはお話していただきましたが、地方のポテンシャルはいかがでしょうか。

岩垂: 地方都市の成長もフィリピンのポテンシャルが高いと判断している理由の1つです。島嶼部も一定規模の都市においてはIT/BPOが隆盛しています。地方も含めて、消費市場の成長は全国的に期待できます。

特にフィリピン航空がマニラから直行便を出している都市を中心にIT/BPO企業が展開しています。

また大学も全国に幅広く設置され、大学進学率はベトナム、インド、マレーシア、インドネシアなどと比べても高いのが特徴です。地方にまで大学が設置され、工科系もIT、コンピュータサイエンスなどを中心に卒業生を輩出しています。

図5

国際線での直行便が発着する都市の強み

三宅: 私が事業を行っているダバオでは日本からの直行便の検討が進んでいます。現在直行便の確定のためにダバオの各商工会が尽力しているのですが、国際便で直行便を持つ都市にはその国からの進出が増えると考えてよいのでしょうか。

図4

岩垂: 重要な「必要条件」ではあると思いますが、必ずしも「十分条件」とは言えないでしょう。マニラやセブよりもダバオの方が人を採用しやすい、事業環境が優れているといった認識が広がらないと難しいと思います。

三宅: 人材については地方では、特に新卒採用で良い人が取りやすいというのはあります。実際に手付かずの人材が大量にいますし、仕事がないのでしかたなく大都市にいくという人が多いので、地方での起業にはそれなりのメリットがあると考えています。

岩垂: 採用ではメリットを感じられているのですね。投資だけでなく観光客の増加などによって、認知度が高まることもあるでしょうし、中長期的に直行便があることの意味が出てくるのではないでしょうか。

5. 他のASEAN諸国と比較したフィリピン経済の成長について

フィリピンは高い成長ポテンシャルを有している

三宅: なるほど。確かにセブなどは観光産業によってかなり認知度が上がった感はありますね。さて、フィリピンの成長理由はだいぶ見えてきましたが、他国はどうでしょうか。

岩垂: 他のASEAN諸国がどうかと言いますと、タイは失業率が低く留まったままであり、かつ「タイ+1戦略」の展開には時間がかかる見込みです。周辺国の工業団地は、タイとの国境付近の農村、漁村などにつくられたものが多いのですが、産業人材(ワーカー)育成が進んでいない。タイ側も国境付近にSEZ整備の計画をしていますが、日本企業には人気がないのが現状です。また全国の失業率が1%で、地方から都市への人口移動も限界を感じます。

インドネシアは持続的な所得の上昇、JABODETABEK以外 の地域での産業振興が課題 となっています。 過去、賃金が高騰したことで購買力が高まり、市場が成長しました。今は賃金上昇は一服しており、耐久消費財の市場成長にかげりが見えます。コスト競争力も低下しています。

この辺を鑑みると、他の主要国が持続的な成長に対する課題に直面しているのに対して、フィリピンは高いポテンシャルを有していると言えます。ただ、しかし、その「成長ポテンシャル」を引き出すためには、これまでの延長線上ではない取り組みをすることが必要ではないかと考えています。中長期的な視点から、フィリピン及びASEAN各国を日比の官民が改めて位置づける必要あるのではないかと思いますね。

【後編に続きます】※近日公開予定!

■インタビューイ:プロフィール
岩垂好彦(いわだれ よしひこ)

株式会社野村総合研究所
グローバル製造業コンサルティング部
上級コンサルタント
<著書>
『転換期を迎えるインド―変化をチャンスに変える日本企業の戦略』(東洋経済新聞社 / 中島久雄氏との共著)ほか

■企画/​構成 
株式会社クリエイティブコネクションズ&コモンズ
Founder:三宅一道(ミンダナオ日本人商工会会頭)

この記事を書いた人

Ichido Miyake

Ichido Miyake

株式会社クリエイティブコネクションズ&コモンズ

2001年よりバンドマンから一念発起してフィリピン・ダバオ市に移住。2012年に株式会社クリエイティブコネクションズ&コモンズを設立。ミンダナオ日本人商工会議所(JCCM)・会頭も務める。

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