ベトナム進出で避けられない「移転価格税制」の基礎知識と対策

移転価格税制とは、企業グループ内の関連会社間で行われる取引価格(移転価格)が、公正かつ市場価格(独立企業間価格)と一致していることを保証するための税制を意味します。
ベトナムに進出する日本企業にとって「移転価格税制」は避けて通れない課題です。関連会社との取引価格が不当に設定されていると、多額の追徴課税やペナルティを課されるリスクがあるからです。
本記事では、ベトナム市場への進出を検討している、または既に進出している企業を対象に、ベトナムの移転価格税制の基本的な仕組みから、トラブル回避のための具体的な対策までをわかりやすく解説します。
▼ ベトナム進出で避けられない「移転価格税制」の基礎知識と対策
1. 移転価格税制とは何か?
移転価格とは企業グループ内で行われる取引価格のことを指します。そして移転価格税制とは、企業グループ内の関連会社間で行われる取引価格(移転価格)が、公正かつ市場価格(独立企業間価格)と一致していることを保証するための税制を意味します。
この制度は、企業が意図的に低税率国へ利益を移転し、税負担を軽減することを防ぐために設けられています。各国の税務当局は、関連会社間の取引価格を監視し、不適切な価格設定が行われた場合には修正を行い、適正な税収を確保することを目的としています。
企業が価格設定を操作して利益を低税率の国に移動することを防ぐ
例えば、日本の企業がベトナムの子会社に製品を販売する場合、その取引価格が移転価格になります。この取引価格は、親会社と子会社、または関連会社間で設定されるため、一見、自由に決めることができるように思われるかもしれません。しかし、実際には独立企業間価格、すなわち独立した第三者間で取引される価格と一致させる必要があります。これは、企業が価格設定を操作して利益を低税率の国に移動させることを防ぐためです。
各国の税務当局は、移転価格税制を導入することで、企業がこのような租税回避行為を行わないよう規制しています。
例えば、日本の企業がベトナムの子会社に製品を通常の市場価格よりも低い価格で販売する場合、日本での利益が減少し、ベトナムでの利益が増加します。この結果、日本の税収が減少し、ベトナムの税収が増加することになります。
移転価格税制は、こうした不正な利益移転を防ぎ、各国が正当な税収を確保できるようにするための重要な手段なのです。
2. なぜ移転価格税制が重要なのか?
移転価格税制は、各国が税収を適正に確保し、多国籍企業による租税回避行為を防ぐために非常に重要な制度です。ベトナムにおいても、この税制の重要性は増しています。
では、なぜ移転価格税制が重要なのでしょうか?
不公正な利益移転は各国の税収に大きな影響を与える
多国籍企業が関連会社間の取引価格を操作することで、利益を税率の低い国に移転し、税負担を軽減しようとする行為は、各国の税収に大きな影響を与えます。そのような不公正な利益移転を防ぐために、ベトナムでは移転価格税制を厳格に適用しているのです。
移転価格税制は、企業が関連会社間の取引価格を独立企業間価格(第三者間での取引価格)に基づいて設定することを求めています。これにより、企業は市場価格に準じた公正な価格で取引を行わなければならず、租税回避行為を行うことが難しくなります。
さらに、ベトナムの税務当局は、企業が適正な移転価格を設定し、関連するドキュメントを適切に作成・提出しているかを厳しく監視しています。
例えば、企業が移転価格の設定に関する詳細な文書を準備し、税務調査に備えることは重要です。これにより、税務当局は企業の取引価格が適正であることを確認し、不正な利益移転を防止することができます。
総じて、移転価格税制は多国籍企業の公正な取引を促進し、各国の税収を適正に確保するための必要不可欠な制度です。ベトナムにおいても、この税制の厳格な適用が、経済の健全な発展と税収の確保に貢献しているのです。
3. 移転価格税制に該当する会社は?
移転価格税制はOECD(経済協力開発機構)で法整備されていますが、ベトナムは、OECDに加盟していないため、国際的な移転価格のルールに完全に縛られているわけではありません。
しかし、OECDのガイドラインを基本的に適用し、基準を満たす企業に対して、移転価格文書の作成義務があります。ベトナムの移転価格に関する法律では、関連会社間の取引について、独立した企業間で行われる取引と比べて不当に安い価格や高い価格で取引が行われていないか、厳しくチェックしています。
この法律は、2020年12月から適用されており、ベトナムに子会社や支店を持つ多国籍企業、あるいはベトナム企業と関連会社間で取引を行う企業が該当します。特に、以下の取引を行う企業は注意が必要です。
- 商品の売買
- サービスの提供
- 無形資産の使用
- 資金の貸し借り
4. ベトナム移転価格税制における「関連者」とは?
移転価格税制において、「関連者」とは、企業間取引において特別な関係にあるとみなされる者を指します。この「特別な関係」とは、単なる取引関係を超え、資本関係や人的関係など、互いに重要な影響力を行使できる関係性を意味します。具体的には、企業間で資本の所有、役員の派遣、重要な無形資産の共有などが行われている場合が該当します。
なぜ「関連者」が重要なのか?
関連者間の取引は、独立した企業間の取引と比較して、価格設定が恣意的になる可能性があります。例えば、多国籍企業が、高税率の国にある子会社から低税率の国にある子会社へ利益を移転するために、商品の価格を不当に安く設定するケースが考えられます。これにより、低税率の国での利益が増加し、高税率の国での利益が減少することで、企業全体の税負担を軽減することが可能になります。
このような行為は、各国の税収に悪影響を与えるため、各国の税務当局は移転価格税制を導入し、関連者間の取引を厳しく監視しています。ベトナムも例外ではなく、関連者間の取引については特に厳格に審査を行い、不正な価格設定を防止するための措置を講じています。
ベトナムにおける「関連者」の定義
ベトナムの移転価格税制において、関連者の定義は幅広く設定されています。具体的には、以下のような関係が「関連者」に該当します:
① 持分保有関係:
一方の会社が他の会社の持分を直接または間接的に25%以上保有している場合。
共通の第三者がそれぞれの会社の持分を直接または間接的に25%以上保有している場合。
② 主要株主関係:
一方の会社が他の会社の持分を直接または間接的に10%以下であっても、その会社にとって唯一の主要株主である場合。
③ 役員の派遣関係:
一方の会社の役員の過半数が他の会社から出向している場合。
④ 無形資産の保有関係:
一方の会社が他の会社の有する重要な無形資産を保有している場合。
これらの関係に該当する場合、関連者間の取引は、独立企業間で行われる取引と同様に厳しく監視されます。関連者間の取引価格が独立企業間価格と一致しない場合、税務当局は独立企業間価格を基準として課税を行います。
5. 移転価格文書とは?
移転価格文書とは、企業が関連会社間の取引価格を設定する際に採用した移転価格方法とその根拠を詳細に記載した文書のことを指します。これらの文書は、税務調査の際に企業が設定した移転価格が適正であり、公正なものであることを証明するために必要です。移転価格文書の作成は、税務当局に対する重要なコンプライアンス義務であり、企業が移転価格税制を遵守していることを示すものです。
ベトナムにおいては、2020年12月に政令Decree 132/2020/ND-CPの一部が改正され、移転価格文書の作成と提出に関する要件が強化されました。この改正により、企業はより詳細な情報を提供し、取引価格が独立企業間価格に基づいて設定されていることを証明する必要があります。
移転価格文書作成に必要な「移転価格フォーム」
移転価格フォームには主に以下4つのフォームが必要となります。
-
Form01:関連会社との関係及び関連会社間での取引に関する情報
-
Form02:ローカルファイル(※1)を作成するための必要な情報
-
Form03:マスターファイル(※2)を作成するための必要な情報
-
Form04:国別報告書(※3)の公表
※1ローカルファイル:
納税義務者の取引の詳細情報のこと。独立企業間での取引価格を算定するための詳細な情報が必要
※2マスターファイル:
親会社グループ全体の情報、グループ内の組織構造や事業内容及び財務状況など、グループ全体の活動に関する情報を指す
※3国別報告書(CbCR):
グループごとに分けて売上高や従業員数をまとめた情報。国別報告書は「①納税者がベトナム国外に最終親会社を有している場合②最終親会社がベトナムの場合」のこの2つのパターンにのみ作成する必要がある
移転価格文書には免除規定がある!?
以下のいずれかの場合、ベトナムの移転価格文書の免除規定を受けることができます。
-
会計年度において納税者の総売上が50億VND未満かつ関連者間取引の総金額が30億VND未満の場合
-
税務局と移転価格事前確認の合意書(APA)を締結し、APAの年次報告書を提出していること
-
納税者の事業内容が単純で、売上が200憶VND未満かつ、借入利息及び税引き前利益の合計/売上の割合が販売業の場合は5%以上、製造業の場合は10%以上、加工業の場合は15%以上である場合
ただし、免除された場合でも、税務調査の際に移転価格の適正性を説明できる準備が必要です。
移転価格文書の提出期限はいつ?
移転価格文書の提出期限は、税務調査前後で異なります。
-
税務調査があった場合、提出を要求された日から15営業日以内
-
税務調査前の場合、提出を要求された日から30営業日以内(15日の延長が可能)
これらの文書の作成と提出は、企業が税務リスクを管理し、移転価格に関する規制を遵守するために必要です。適切な文書を準備し、期限内に提出することで、税務当局とのトラブルを回避し、企業の信頼性を高めることができます。
6. 移転価格が不適切と判断された際のペナルティ
移転価格が不適切と判断された場合や、必要な移転価格文書を作成しなかった場合、企業は多額の追徴課税を受ける可能性があります。
特に、税務調査での指摘を受けた場合、迅速に適正な文書を提出することが重要です。適切な移転価格設定を行い、必要な文書を期限内に準備することで、ペナルティを回避できます。
7. ベトナムでの移転価格なら「東京コンサルティングファーム」にお任せください
今回は「ベトナムの移転価格税制」について解説しました。
ベトナムの移転価格税制は複雑であり、企業にとって大きなリスクとなる可能性があります。税務調査のリスクを低減するためには、早い段階から専門家のアドバイスを受け、適切な移転価格設定を行うことが重要です。
私たち「東京コンサルティングファーム」は、会計事務所を母体とした26ヵ国39拠点に展開するグローバルコンサルティングファームです。
海外現地では日本人駐在員とローカルスタッフが常駐しており、また各拠点に会計士・税理士・弁護士など専門家チームが所属しているため、お客様の多様なニーズに寄り添った対応が可能です。
本稿で解説した、ベトナムの移転価格税制に関するご相談はもちろん、ベトナム以外の国への海外進出から海外子会社管理、クロスボーダーM&A、事業戦略再構築など、海外進出に関する課題がありましたら、ぜひお気軽にお問い合わせください。
(参考文献)
・移転価格税制の概要 財務省
・移転価格とは? デロイト トーマツ税理士法
・移転価格税制とは?押さえるべきポイントや制度についてわかりやすく解説 AGS media
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■主要施策
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↳消費者調査・インタビュー
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↳ウェブ調査/分析
②BtoC販路開拓サポート
- EC/越境EC運用代行サポート
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③法人・店舗開業
- グローバル飲食店開業サポート
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株式会社東京コンサルティングファーム
【26ヵ国39拠点】各国日本人駐在員が現地にてサポートいたします。
弊社は、会計事務所を母体とした26ヵ国39拠点に展開するグローバルコンサルティングファームです。
2007年に日本の会計事務所として初めてインドに進出し、翌年ASEAN一帯、中南米等にも進出しました。歴が長く、実績・ノウハウも豊富にございます。
海外進出から海外子会社管理、クロスボーダーM&A、事業戦略再構築など国際ビジネスをトータルにサポートしています。
当社のサービスは、“ワンストップ”での サービスを提供できる環境を各国で整えており、特に会計・税務・法務・労務・人事の専門家を各国で有し、お客様のお困りごとに寄り添ったサービスを提供いたします。
<主要サービス>
・海外進出支援
進出相談から登記等の各種代行、進出後の継続サポートも行っています。月額8万円~の進出支援(GEO)もご用意しています。また、撤退時のサポートも行っています。
・クロスボーダーM&A(海外M&A)
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各国の税務・会計、監査や労務まで進出時に必要な業務を幅広く行っています。
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株式会社ダズ・インターナショナル
*アジア・欧米への進出を伴走支援*
私たちは日本企業のアメリカ・東南アジア・東アジアへのグローバル展開をサポートします。
支援実績社750社を超え、見えてきた成功と失敗の共通点・傾向から、"企業の「やりたい」を『デキル化』する" をモットーに、新しい市場への挑戦に伴走します。
事業をしっかり前に進めるための"デキル化支援"として、これまでに携わった海外進出支援の中で、効果的な支援手法として、これらの3つのサービスラインナップを用意しております。
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01:デキル化伴走サポート
私たちが貴社のグローバルマーケティングチームになります。
海外進出のアイデア段階から伴走し、すべき/すべきでないことをミエル化し、デキるサイズ(実現可能な行動)に落とし込み、デキル化。
貴社のグローバルマーケティングチームとして積極的な事業推進を伴走します。
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各フェーズ(調査・設計・実施)で、幅広い施策サポートを。
海外進出の各フェーズ・各施策を必要な分だけサポート。
ご要望と協議により、最適な関わり方・契約形態にて支援。
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貴社にとってどんな企業がパートナーとして最適か、第三者視点で精査・提案いたします。
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■第三者ならではの貢献
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"新しい市場でビジネス展開するためには、これらの3つの視野が必要"です。
- 主観:進出する企業(売る側|販売主の視野)
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それぞれの視野・立場だからこそ気づけること・見えること・わかることがあり、当然、偏りもある中でそのバランスをまとめる第三者が必要になります。
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