地政学とは何か?【2024年版】世界の地政学リスクランキング
地政学とは何か? 日本企業が懸念すべき世界の地政学リスクとは? これらの疑問に対してわかりやすく解説します。さらに日本企業が注意すべき「【2024年版】世界の地政学リスクランキング」もご紹介します。
地政学は、地理学と政治学を組み合わせた学問で、国の地理的条件に基づいて、政治的、社会的、軍事的な影響を研究する分野を指します。地政学リスクとは、特定の地域における地理的要因によって、政治的・社会的・軍事的な緊張が高まるリスクのことです。
ロシアとウクライナの軍事衝突や、北朝鮮の度重なるミサイル発射、イスラエルのガザ地区侵攻、中東におけるイエメンの反政府組織フーシ派の不穏な動きなど、2024年の世界情勢は更に不安定さを増しています。
それによって海外進出企業が影響を受ける恐れのある地政学リスクも多様化し、日々変化を続けているのです。
海外進出を検討している日本企業は、地政学リスクを始め、各種のリスクに関する情報とその入手方法、およびその対策のアップデートを、常日頃から意識する必要があります。
本稿では、毎年「Digima~出島~」が発表している「海外進出白書」より、「日本の海外進出企業のリスク管理」に関するアンケート調査の結果も併せてご紹介します。
▼地政学とは何か?【2024年版】世界の地政学リスクランキング
- 1. 地政学とは何か?
- 2. 地政学リスクとは何か?
- 3. 日本の海外進出企業が直面する地政学リスク
- 4. 【2024年版】世界の地政学リスクランキング
- 5. 日本の海外進出企業はどのようなリスク管理をしているのか?
▼アナタの海外ビジネスを成功させるために
1. 地政学とは何か?
地政学とは、国家の地理的条件とそれに基づく政治的、経済的、軍事的な戦略の相互作用を研究する学問です。具体的には、特定の地域や国の地理的特性が、国家の政策や国際関係にどのように影響を与えるかを分析します。
特に、地理的要因が国家の安全保障や経済発展に与える影響を理解することは、政府の政策立案者はもちろん、海外ビジネスに従事するビジネスパーソンにとっても、今や不可欠な知識と言えるでしょう。
地政学=地理的な条件を基に国家間の政治、経済、軍事戦略を分析する学問
地政学とは、地理学と政治学を合わせた用語で、国の地理的な条件をもとに、政治的、社会的、軍事的な影響を研究する学問における研究分野を指します。
具体的には、国家が持つ地理的特徴—山脈、海洋、資源、気候など—が、その国の政治、軍事、経済政策にどのように影響を与えるかを分析します。例えば、日本は四方を海に囲まれた島国であり、この地理的特性が日本の防衛政策や経済活動に深く影響しています。また、アメリカや中国といった大国は、広大な領土と多様な資源を持つことから、その地政学的な位置が世界政治における両国の立場を大きく左右しています。
「シーパワー」と「ランドパワー」とは?
さらに、地政学は「シーパワー」と「ランドパワー」という概念を通じて、海洋国家と大陸国家の違いを示しています。「シーパワー」は、海洋へのアクセスを持つ国々の力を指し、例えば日本やアメリカ、イギリスがこれに該当し、これらの国々は海洋貿易や海軍力を重視する傾向があります。
一方「ランドパワー」は、主に陸続きで他国と接している国々の力を指し、中国やロシアが典型的な例です。これらの国々は、地理的な要因から陸上での防衛や領土拡大に重きを置きます。
さらに現代においては、「エアパワー」「スペースパワー」「サイバーパワー」といった新しい概念を含むようになり、国家間の競争が物理的な領土に限られないことを示すようになりました。これらの概念は、航空宇宙技術やサイバー空間における国家の力を指し、21世紀の国家間競争においてますます重要な指標となっています。
2. 地政学リスクとは何か?
地政学リスクは、国の政策決定はもちろんこと、海外ビジネスの戦略策定においても、避けて通れない重要な要素です。地理的な位置関係や地政学的な要因が、国家間の緊張や紛争を引き起こし、経済や社会に多大な影響を与えることがあるからです。
このセクションでは、地政学リスクの概念と、海外ビジネスに及ぼす影響について解説します。
地政学リスクは「企業の経済活動」と「人命や安全」に対して大きな影響を与える
地政学リスクとは、特定の地域や国の地理的条件に起因する政治的、社会的、軍事的な緊張や不確実性を指します。
これらのリスクは、紛争やテロ、クーデター、自然災害など、さまざまな形で現れることがあります。
例えば、中東地域での政治的緊張は、原油価格の変動に大きな影響を与え、世界中のエネルギー市場に波及します。また、東アジアにおける領土紛争や軍事的対立は、地域の安全保障と経済活動に深刻な影響を与える可能性があります。
地政学リスクは、その地域にとどまらず、グローバルな経済や市場にも広範な影響を及ぼします。例えば、重要な貿易ルートに位置する国での紛争や政情不安は、世界中の貿易や物流に影響を与える可能性があります。このようなリスクを評価し、適切に対処することは、国際ビジネスの成功に不可欠です。
地政学リスクは多岐にわたるため、厳格な定義は存在しませんが、一般的には以下の2つのリスクが挙げられます。
① 経済活動への影響
輸出入制限や関税引き上げなど、特定の地域でのビジネス活動に直接的な悪影響を及ぼすリスク
② 人命や安全への影響
国家間紛争やテロ、抗議デモなどが現地に滞在する駐在員や出張者に直接的な危険をもたらすリスク。
これらのリスクは、経営層が懸念するものと、現地で活動する社員が懸念するものに分けられます。特に地政学リスクは、急速に状況が変化するため、企業の迅速な対応が求められます。地政学リスクの認識と管理は、企業がグローバル市場で成功を収めるための重要な要素となりつつあるのです。
地政学リスクの種類
地政学リスクは、その性質に応じていくつかのタイプに分類されます。主なリスクには以下が含まれます。
① 国家間紛争
ウクライナ危機や南シナ海問題など、国家間の対立がエスカレートして武力衝突に至るリスクです
② テロ
イスラム国(IS)によるテロ攻撃や、ヨーロッパ各地でのテロ事件がこれに該当します。テロは予測が難しく、発生すると瞬時に重大な影響を与えます。
③ クーデター
ミャンマーのクーデターのように、突然の政権転覆が国内外に広範な影響を与えるリスクを指します
④ 抗議デモ
カザフスタンでの大規模な反政府デモや、チリでの社会不安が例として挙げられます。これらのデモは時に暴力を伴い、経済活動に重大な支障をきたします
3. 日本の海外進出企業が直面する地政学リスク
グローバル企業が海外で事業を展開する際に直面する地政学リスクは多岐に渡ります。日本企業のその例外ではありません。以下に主なリスクを挙げ、それぞれの対策について簡潔に述べていきます。
① 輸出入制限や関税引き上げ
米中貿易摩擦の影響で、中国市場に依存する日本企業が多大な影響を受けました。これに対する対策としては、供給チェーンの多様化や、複数国に製造拠点を分散させることが考えられます。
② 国家間紛争
中東地域への進出企業は、常に政治的な緊張に晒されています。リスク軽減策として、現地の政治情勢のモニタリングや、事前のリスク評価が重要です。
③ テロや抗議デモ
特定の地域での大規模なテロや抗議デモは、社員の安全確保が最優先となります。これには、現地情報の迅速な収集と、緊急時の対応計画が不可欠です。
これらのリスクに対処するためには、企業は常に最新の情報を収集し、リスク評価を行い、適切な対応策を講じる必要があります。
ただ、国家間紛争と比較した場合、テロやクーデターはさらに予見することが非常に困難であり、急激にリスクが肥大化する危険性をはらんでいます。
海外進出をする日本企業にとって、地政学リスクを始め、各種のリスクに関する情報とその入手方法、およびその対策のアップデートを常日頃から意識することが、今後さらに重要となります。
以降からは、具体的な例を挙げて「【2024年版】世界の地政学リスク-トップ5」について解説します。
4. 【2024年版】世界の地政学リスクランキング
ここからは、2024年の世界の主要な地政学リスクトップ5を取り上げ、それぞれのリスクが日本や世界に与える影響について詳しく解説します。
2024年は、グローバルな地政学的環境が急速に変化し、企業や政策決定者にとって重要な年となる見込みです。国際社会は、新たな政治的、経済的な課題に直面しており、その影響は各国の経済活動や安全保障に深刻な影響を及ぼしています。
特に、地政学リスクは企業の海外展開や投資戦略において無視できない要素であり、企業による適切なリスクマネジメントが求められているのです。
1位:アメリカ国内の政治的分断
2024年のアメリカは、政治的分断が一層深刻化しました。きたる大統領選挙を控え、民主党と共和党の対立は歴史的な水準に達しており、政策決定プロセスが停滞しています。
現在、主要候補として、カマラ・ハリス副大統領とドナルド・トランプ前大統領の対決が予想されており、それぞれが抱える課題が選挙戦の中心的な論点となっていますが、ハリス副大統領はバイデン政権が掲げていた政策の継続を検討しているのに対し、トランプ前大統領は強硬な保守政策を掲げています。
このような内部対立は、米国の外交政策の一貫性に疑問を投げかけており、同盟国や貿易パートナーの立ち位置に不確実性を生じさせています。特に、米中関係や北大西洋条約機構(NATO)における米国の役割が不透明になる中、グローバル経済および国家間の安全保障政策への影響が懸念されています。
2位:中東地域の緊張
中東地域では、イスラエルとパレスチナ間の緊張が高まり、特にガザ地区における衝突が深刻なものになっています。さらに、イランとサウジアラビアをはじめとする湾岸諸国の対立がエスカレートし、地域全体の不安定化リスクが増しているのです。
またイエメンの反政府組織フーシ派の不穏な動向は、世界の石油供給ラインへの脅威に繋がっており、今後のエネルギー市場に大きな影響を与える可能性が懸念されています。この地域での軍事衝突が激化すれば、原油価格の急騰や供給不安が生じ、日本を含む多くの国々のエネルギー安全保障が脅かされます。
3位:ロシアとウクライナの対立
ロシアのウクライナ侵攻は2024年も続いており、東欧の安全保障情勢を大きく揺るがしています。ロシアはウクライナ東部の支配を強化しており、これによりウクライナの領土分割が進んでいます。
アメリカと欧州連合(EU)の経済制裁がロシア経済に打撃を与える一方で、ロシアは軍事的圧力をさらに強めています。この対立は欧州全体のエネルギー供給の不安定化を引き起こし、天然ガスの供給停止リスクやエネルギー価格の上昇が懸念されます。また、NATOとロシア間の緊張が高まる中、欧州の安全保障体制も揺らぎつつあります。
4位:中国と台湾の緊張の高まり
2024年、中国と台湾の間の緊張が急速に高まっています。中国政府は台湾を国家の一部と見なし、統一を目指す姿勢を強めています。
これに対し、台湾は民主主義と自治を維持することを強調しており、アメリカを含む多くの国々からの支持を受けています。この対立は、南シナ海における軍事的プレゼンスの増大や、台湾周辺での軍事演習の頻度の増加を招いています。
万が一、軍事衝突が発生した場合、アジア全体の安全保障と経済に甚大な影響を与えることが懸念されています。また、この地域での紛争は、グローバルなサプライチェーンにおける半導体供給に重大な影響を及ぼす可能性も否定できません。
5位:北朝鮮の核・ミサイル開発が日米韓に及ぼす影響
2024年も北朝鮮は核開発やミサイル発射を続けており、東アジア全体の緊張が高まっています。
バイデン政権の対北政策が明確でないため、北朝鮮は核実験や弾道ミサイルの発射を行い、周辺国に対する影響力を試そうとしています。特に、日本や韓国にとって、北朝鮮のミサイル技術の進歩は直接的な脅威です。
米国の対北朝鮮政策が不透明なため、地域の同盟関係に不安が生じており、日米韓の安全保障協力にも影響を与えています。
5. 日本の海外進出企業はどのようなリスク管理をしているのか?
最後に本稿のメインテーマ「地政学および地政学リスクの基礎知識」の補足情報として、「日本の海外進出企業のリスク管理」に関するアンケート調査の結果をご紹介します。
毎年、海外ビジネス支援プラットフォーム「Digima~出島~」では1年間の進出相談と海外進出企業ならびに、海外進出支援企業を対象に実施したアンケートをもとに「海外進出白書」を作成しています。
今回のアンケートでは、「リスク管理の検討状況」「実施できたこと」についても調査を実施しました。下記がその結果となります。
海外進出企業の約15%が事業における「リスク管理」を導入している
全体の企業では「導入した」が14.6%、成功企業(※海外事業を3年継続している企業)のクロス集計では「導入した」が23.2%という結果でした。
これはいずれも前年度と比較して2倍ほどになっています。ここ数年で、リスク管理についての関心が高まり、導入している企業が増加していることが伺えます。
それでは、実際にどのような形で「リスク管理」に取り組むことができるのでしょうか。その結果が下記のグラフとなります。
具体的には、弁護士の手配、商標・特許での対策を実施している企業が多いようです。一方
で、保険の活用やリスク管理体制の整備はまだまだ進んでいない傾向にあることがわかります。
それでは、海外事業を3年継続している成功企業に関してはどうでしょうか。
結果として、「弁護士の手配」が大きく割合を伸ばしています。その他、いずれの回答も割合
を伸ばしていますが「リスク管理責任者の設置」までは至っていない企業が多いこともわかり
ます。
海外企業、特にアメリカの企業などは「リスク管理」を重視し、専門の部署と責任者をおいているケースが多くなっています。その点、日本企業がグローバルで戦っていくためには、こうした体制の整備も課題となってくるはずです。
…上記の内容をさらに深掘りした日本企業の海外進出動向を「海外進出白書」にて解説しています。
日本企業の海外進出動向の情報以外にも、「海外進出企業の実態アンケート調査」「海外ビジネスの専門家の意識調査」など、全117Pに渡って、日本企業の海外進出に関する最新情報が掲載されている『海外進出白書(2023-2024年版)』。
今なら無料でダウンロードが可能となっております。ぜひ貴社の海外ビジネスにお役立てください!
6. 優良な海外進出サポート企業をご紹介
貴社にピッタリの海外進出サポート企業をご紹介します
今回は「地政学および地政学リスクの基礎知識」について解説しました。海外進出を検討している日本企業は、地政学リスクを始め、各種のリスクに関する情報とその入手方法、およびその対策のアップデートを、常日頃から意識する必要があります。
海外ビジネスの事業計画を立てる際には、ぜひ今回解説したようなリスク管理も考慮していただければ幸いです。
「Digima〜出島〜」には、厳正な審査を通過した優良な海外進出サポート企業が多数登録しています。当然、複数の企業の比較検討も可能です。
「海外進出を検討している国の状況について知りたい」「海外事業におけるカントリーリスクを含めた市場調査について教えてほしい」「海外ビジネスの事業計画立案のアドバイスをしてもらいたい」「海外に進出したいが何から始めていいのかわからない」…といった、多岐に渡る海外進出におけるご質問・ご相談を承っています。
ご連絡をいただければ、海外進出専門コンシェルジュが、御社にピッタリの海外進出サポート企業をご紹介いたします。まずはお気軽にご相談ください。
(参照文献)
・「【地政学】ってどんな学問? なぜ流行っているの? 大学で学ぶならどの学部・学科?」スタディラボ
・「米調査会社、2024年の10大リスク発表、最大リスクは米国の政治的分断」JETRO
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