シンガポールの法人税を徹底解説!低税率のメリットと企業が知るべきポイント

シンガポールは、東南アジアのビジネス拠点として、多くのグローバル企業を惹きつけています。政治的安定性、整備された法体系、公用語である英語の普及、優秀な人材の豊富さ、高い生活水準、さらには物流拠点としての戦略的な立地など、東南アジアに統括拠点を設置する上で魅力的な要素が数多く揃っています。
中でも、低い法人税率は大きな魅力の一つです。シンガポールの法人税率は17%と日本よりも低く、加えて部分免税や税優遇制度、特定支出に対する特別控除などを活用することで、実効税率はさらに引き下げられます。シンガポールの多くの企業がその恩恵を受けています。
本記事では、シンガポールの法人税の基本知識をはじめ、税率の仕組みや企業が知っておくべきポイントを分かりやすく解説します。シンガポールでのビジネス展開を検討している方や、税制の概要を大枠で把握したい方は、ぜひご覧ください。
▼ シンガポールの法人税を徹底解説!低税率のメリットと企業が知るべきポイント
・シンガポールの法人税の概要
- シンガポールの法人税率
シンガポールの法人税率は17%であり、日本の法人税率や事業税などを含めた総合税率36.80%と比べて大幅に低いです。また、東南アジアの主要国と比較しても、シンガポールの法人税率は低く、企業にとって魅力的な税制環境となっています。
加えて、部分免税や各種控除制度があり、実効税率はさらに低くなります。実効税率は、適用される優遇制度によって異なりますが、すべての企業(内資・外資問わず)に適用される部分免税では、最初の1万シンガポールドル(約110万円)について75%、次の19万ドル(約2,090万円)について50%の免税が適用されます。さらに、2025年は特例として、企業の資金繰りを支援するために法人税リベート(CIT Rebate)が導入されており、すべての課税対象企業が法人税の一部還付を受けることができます。CIT Rebateでは、最大4万ドル(約440万円)まで法人税の50%が還付されます。また、小規模企業向けの追加支援として、2024年に1名以上のシンガポール国民または永住者を雇用している企業を対象に、CIT Rebate Cash Grantとして2千ドル(約22万円)が現金で支給されます。
課税所得が30万ドル(約3,300万円)の場合、部分免税およびCIT Rebateの影響を考慮すると、最初の1万ドル(約110万円)は75%が免税され、次の19万ドル(約2,090万円)は50%が免税されます。これにより、最初の20万ドル(約2,200万円)に対する課税額は、
- $10,000×(1-75%)+$190,000×(1- 50%)=$97,500となり、
- 最終的な課税所得は$97,500 + $100,000=$197,500(約2,172万円)となります。
上記で算出した課税所得から実行税率を算出すると以下のとおり、
$18,787 ÷ $300,000 は 6.3% となります。
※参考:
- Corporate Income Tax Rates, Government of Singapore
- Corporate Income Tax Rate, Rebates & Tax Exemption Schemes, Government of Singapore
- 3.3 法人所得課税の概要(法人税・法人住民税・事業税), JETRO
- 日本との比較:シンガポール法人税の優位性
前述のとおり、日本の法人税等は約36.8%であり、財務省によると2025年4月1日以降の実効税率(標準税率ベース)は29.74%となっています。前述のシンガポールでのシミュレーションケースを活用し、課税所得30万ドル(約3,300万円)として、日本とのケースを比較したいと思います。なお、厳密な計算ではないため、あくまで概観を捉えるための参考としてご理解ください。
以下表のとおり、
- シンガポールでは実効税率6.3%で、日本円換算での支払税額は206万円となります。
- 一方、日本では、実効税率29.74%を適用すると、支払税額は981万円となります。
- 日本の981万円からシンガポールの206万円を差し引いた支払税額の差額は774万円となります。
なお、シンガポールの法人設立コストや会社を維持するための事務コストはそれほど高くありません。一方で、人件費や地代などの費用は日本に比べ高いケースが多いです。そのため、法人の運営コストは日本に拠点を置く以上の負担となる可能性が高いです。したがって、単に税率の低さを理由に移転を検討すると、トータルコストの観点で必ずしもプラスにならない可能性がある点に留意する必要があります。
※参考:
- 法人課税に関する基本的な資料, 財務省
- 課税対象
(1) 課税対象となる収益
課税対象となる収益は以下のとおりです。
- 事業活動からの利益
- シンガポールで行われるビジネスによる収益(商品販売、サービス提供など)
- 投資収入(ただし、キャピタルゲインを除く)
- 配当
- 利息
- 不動産収入
- 知的財産権に関する収入
- ロイヤルティ
- 特許・商標・著作権などからの利益
- その他の課税対象収入
- 取引の性質を持つ収益(例: 頻繁な売買による収益)
- 海外事業で得た収益(海外所得)のうち「シンガポールに持ち込まれた」と見なされたもの。なお、「シンガポールに持ち込まれた」と見なされる条件は、以下のいずれかに該当する場合です。例えば、マレーシア事業で100万リンギの利益を得て、そのうち50万リンギをシンガポールの銀行口座に移した場合、移動した50万リンギが課税対象となります。
- シンガポールの銀行口座に送金された場合
- シンガポールでのビジネス活動のために使用された場合
- シンガポールで購入された資産に使われた場合
(2) 課税対象とならない収益
課税対象とならない収益は、上述の課税対象収益に含まれないものです。例えば、海外事業で得た収益(海外所得)であっても、「シンガポールに持ち込まれた」と見なされなければ課税されません。
また、日本との大きな違いとして、シンガポールではキャピタルゲインが課税対象外である点があげられます。これは、キャピタルゲインが資本利益と見なされ、通常の投資収入とは区別されるためです。そのため、株式や不動産投資に係るキャピタルゲインに対して法人税は発生せず、キャピタルゲイン課税もありません。
なお、頻繁な取引や多数の短期取引がある場合、株式投資や不動産売買が単なる投資ではなく事業の一環と判断され、法人税が課される可能性があります。
※参考:
- Taxable & Non-Taxable Income, Government of Singapore
・法人税の優遇措置と節税のポイント
- 新規スタートアップ企業向け税制優遇制度
シンガポール政府は、経済の多様化と持続可能な成長を実現するため、起業を促進し、スタートアップ企業の成長を支援する税制優遇制度(The tax exemption scheme for new start-up companies)を導入しています。2005年に開始されたこの制度は、設立後3年間(3事業年度)の法人所得税を大幅に軽減し、起業家が事業の立ち上げと拡大に集中できる環境を提供します。政府は、国内のイノベーション・エコシステムを強化し、アジアのスタートアップハブとしての地位を確立することを目指しており、当該税制優遇はその戦略の一環です。
適用対象
新規スタートアップ企業向け税制優遇制度の適用を受けるためには、以下の3つの条件を満たす必要があります。
- シンガポールで設立された法人あること
- シンガポールの税務居住者であること
- 発行済み株式が、20人以下の株主により直接保有されており
- すべての株主が個人である、または
- 少なくとも1人の株主が10%以上の普通株式を所有していること
ただし、上記の条件を満たしていても、以下の企業は適用対象外となります。
- 投資持株会社(Investment Holding Company)
- 不動産開発・販売・投資を主とする企業(Property Development Company)
優遇税制の内容
当該制度を活用すると、最初の10万ドル(約1,100万円)は75%が免税され、次の10万ドル(約1,100万円)は50%が免税となります。
なお、本制度は部分免税制度と併用できず、どちらかを選択する必要があります。一般的には、新設企業は最初の3事業年度は本制度を適用し、4事業年度目以降は部分免税制度を利用するケースが多いです。
部分免税制度の場合と同様に、新規スタートアップ企業向け税制優遇制度を適用し、課税所得が30万ドル(約3,300万円)のケースを考えたいと思います。最初の10万ドル(約1,100万円)は75%が免税され、次の10万ドル(約1,100万円)は50%が免税となるため、最初の20万ドル(約2,200万円)に対する課税額は、
- $100,000 × (1 - 75%) + $100,000 × (1 - 50%) = $75,000となり、
- 最終的な課税所得は $75,000 + $100,000 = $175,000(約1,925万円)となります。
上記で算出した課税所得から実行税率を算出すると以下のとおり、$16,875 ÷ $300,000は5.6%となります。
留意点
既存企業が税負担を軽減する目的で、複数のシェルカンパニー(実態のない企業)を設立し収益を分散させること、または実態のない会社を設立し事業活動を行わずに免税を受けようとすることは認められていません。
シンガポール税務当局(IRAS)は、このような制度の不正利用を厳しく取り締まっており、違反が発覚した場合には重いペナルティが科されます。税務詐欺は犯罪と見なされ、厳しい罰則が適用されます。
IRASによると、これまでにすでに300社以上の不正を摘発し、総額2,500万ドル(約27億円)以上の追徴課税および罰金を課しています。
※参考:
- Corporate Income Tax Rates, Government of Singapore
- 税控除・減税措置(EIS:エンタープライズ・イノベーション・スキーム)
研究開発(R&D)、知的財産、従業員トレーニング、産学連携等に係る税控除
Enterprise Innovation Scheme (EIS)は、シンガポール政府が企業のイノベーション活動を促進し、経済の持続的な成長と競争力を強化するために導入した税控除措置であり、2024年度から2028年度まで適用される制度です。シンガポールは、知識集約型経済への移行を推進し、R&Dや技術革新、知的財産の創出を重要な成長戦略と位置づけており、その一環としてEISを提供しています。
この制度では、対象となる活動(支出)に対して400%の税控除(Tax Deduction)や税額控除(Allowance)を提供し、企業のR&D、知的財産(IP)、人材育成、産学連携によるイノベーション活動を支援しています。なお、税控除・税額控除に代えて、中小企業などが税負担を軽減しやすいように、20%の換算率で、最大10万ドル(約1,100万円)の対象経費を現金支給するオプション(Cash Payout)も提供されています。
EISの適用対象
EISの適用を受けることができるのは、個人事業主、パートナーシップ、法人、外国企業のシンガポール支店、外国親会社・持株会社のシンガポール子会社などです。なお、投資持株会社や一部の非営利団体は適用対象外となります。
EISの適用条件
EISの適用条件は、税控除/税額控除と現金支給で異なります。
- 税控除 / 税額控除(Enhanced Tax Deductions / Allowances) の条件
- シンガポールで事業活動を行っていること
- EIS対象の費用を適用年度(YA)の基準期間内に発生させていること
- 現金支給(EIS Cash Payout) の条件
- シンガポールで事業活動を行っていること
- EIS対象の費用を適用年度(YA)の基準期間内に発生させていること
- 少なくとも3人のフルタイムのローカル従業員を雇用していること
- 該当する適用年度(YA)の法人税申告を法定期限内に提出していること
EISの対象となる活動と優遇内容(2024~2028年度)は以下のとおりです
※参考:
- Enterprise Innovation Scheme (EIS), Government of Singapore
- その他、主な税制優遇制度
Pioneer Certificate Incentive(PCI)
PCIは、シンガポールにおける高度な技術投資や新規事業の確立を奨励するための最上位のインセンティブとして位置付けられています。申請ごとにシンガポール政府と対象企業の間で協議が行われ、適用されるインセンティブが決定されます。シンガポールへの大規模な投資に加え、雇用創出や産業発展への貢献が求められるため、適用基準は非常に高いと言われています。
- 制度概要
- シンガポールにおける先進的かつ高付加価値な事業活動を推進する企業に対し、一定期間法人税を免除するインセンティブ(最大100%減免)
- 適用期間は5年間であり、企業がさらなる拡張計画を示せば延長が可能
- 対象企業
- シンガポールに最先端技術や新しい産業を導入するプロジェクトを実施する企業
- グローバル市場で競争力のある製品・サービスを提供する企業
- 適用基準
- 世界をリードする産業に貢献すること
- 高付加価値な雇用機会(上級職や専門的知識を要する職種など)を創出すること
- 製造プロジェクトの場合、工場、建物、設備などの固定資産への投資が必要
- 主な適用分野
- 先端製造業(ハイテク・半導体、精密機器、バイオ医薬品など)
- 研究開発・イノベーション分野
- デジタル・テクノロジー分野(AI、サイバーセキュリティ、クラウド技術など)
Development and Expansion Incentive (DEI)
DEIは、シンガポールにおける事業の発展および拡張を支援する主要なインセンティブの一つとして位置付けられています。対象企業は、付加価値の高い活動を行い、シンガポールの経済成長に貢献することが求められます。PCIと同様、申請ごとにシンガポール政府と対象企業の間で協議が行われ、適用されるインセンティブの内容が決定されます。シンガポールでの事業拡大や高度な雇用機会の創出、技術革新への貢献が求められるため、適用基準は高く設定されています。
-
制度概要
- 企業の既存事業の拡張や高度化に対し、法人税率を標準の17%から5〜10%に引き下げるインセンティブ
- PCIよりも適用範囲が広く、幅広い産業に適用可能。ハードルは高いものの、PCIほどではない
-
適用条件
- 企業がシンガポールで事業拡大や高付加価値化に貢献すること
- 新規投資、設備・技術の高度化、研究開発、グローバル事業の拡張などが含まれること
※参考
- PIONEER CERTIFICATE INCENTIVE AND DEVELOPMENT AND EXPANSION INCENTIVE, Government of Singapore
- タックスヘイブンとしての誤解
前述のとおり、シンガポールの法人税率は日本に比べて低く、多くの優遇税制や免税措置を設けているため、実効税率は更に低いです。しかし、シンガポールは厳格なコンプライアンスと報告基準を備えた高度に規制されたシステムを維持しています。また、国際的な税務基準や協定を順守し、不正な金融活動を防止するための措置を行っており、意図的な租税回避地(タックスヘイブン)とは異なる特徴を持っています。
そのため、シンガポールに拠点を構える場合、税制メリットだけを目的とするのではなく、シンガポールに適した意味のある機能を設置することが重要です。シンガポールは、人件費や物価も高く、多少の節税額ではメリットがない可能性があります。海外進出の目的を踏まえ、シンガポールがその選択肢としてふさわしいかを判断することが大切です。その際、機能面で得られるメリットや、必要となるコストを明確にすることが重要です。さらに、税制を含む各種メリットを総合的に考慮し、拠点の設置を検討します。税制上のメリットはあくまで補完的な要素であり、まずは必要な機能を検討することが順番として適切です。
・法人税申告の流れと注意点
- 申告スケジュール
シンガポールの企業は、毎年2種類の法人所得税申告書(ECIおよびCorporate Income Tax Return)を提出する必要があります。まず、Estimated Chargeable Income(推定課税所得:ECI)を会計年度終了後3か月以内に提出しなければなりません。ただし、年間売上が500万ドル(約5.5億円)以下で、かつ課税所得がゼロの場合には、ECIの提出が免除されます。
その後、ECIの提出有無にかかわらず、法人所得税申告書(Corporate Income Tax Return)を毎年11月30日までに提出する必要があります。最終的な課税所得を確定するために、必ずCorporate Income Tax Returnを提出する義務があります。この申告には、Form C / Form C-S / Form C-S (Lite)のいずれかを使用し、企業の規模や税控除の適用状況に応じて適切なフォームを選択します。
※参考:
- Basic Guide to Corporate Income Tax for Companies, Government of Singapore
- 申告方法と必要書類
シンガポールの法人所得税の申告は、すべてオンライン(myTax Portal)で行います。
ECIの申告方法と必要書類
ECIの申請時に、オンライン申請書以外の提出書類はありません。ただし、申告に必要な情報を正確に入力するために、最新の財務諸表や税務関連資料(税額控除・免税申請関連書類など)を事前に準備しておく必要があります。ECI申請の手順は以下のとおりです。
- IRASのmyTax Portalにログイン
- File ECIを選択
- 財務諸表や税務関連資料をもとに、収益情報・課税所得情報を入力
- 適用可能な税控除・免税措置を確認し、課税所得を確定
- 申請内容を送信する
法人所得税申告書(Corporate Income Tax Return)の申告方法と必要書類
企業は、毎年11月30日までにCorporate Income Tax Returnを提出する必要があります。なお、フォームは企業の規模や税控除の適用状況に応じて、各企業がマッチしたものを選択します。
フォーム毎の条件とフォームに応じた必要書類は以下のとおりです。
法人所得税申告の手順は以下のとおりです。
- IRASのmyTax Portalにログイン
- File Form C-S (Lite) / Form C-S / Form Cを選択
- 財務諸表や税務関連資料をもとに、収益情報・課税所得情報を入力
- 適用する税額控除・免税措置を確認し、最終的な課税所得を確定
- Form Cを利用している場合は、資料(財務諸表および税金計算書)を添付
- 申請内容を送信する
※参考:
- Estimated Chargeable Income (ECI) Filing, Government of Singapore
- User Guide for Company File Estimated Chargeable Income (ECI), Government of Singapore
- Overview of Form C-S/ Form C-S (Lite)/ Form C, Government of Singapore
- User Guide (Company) File Form C-S/ Form C-S (Lite), Government of Singapore
- User Guide (Company) File Form C, Government of Singapore
- 会計監査の義務
シンガポールでは、すべての企業は設立から3ヶ月以内に監査人を任命し、毎年財務諸表の監査を受けることが義務付けられています。ただし、会計企業規制庁(ACRA)は「小規模企業」に対して監査免除を適用しています。
小規模企業として監査免除を受けるための条件は、以下の2つを満たすことです。
- 当該会計年度において非公開会社であること
- 直近の連続する過去2会計年度のそれぞれで、以下の3つの基準のうち少なくとも2つを満たすこと
- 年間総収入:1,000万ドル(約11億円)以下
- 総資産 :1,000万ドル(約11億円)以下
- 従業員数 :50人以下
また、持株会社や子会社を含むグループ企業の場合、監査免除を受けるには、グループ全体として上記の基準を満たす必要があります。
※参考:
- More Details on Small Company Concept for Audit Exemption, Government of Singapore
- シンガポールで求められる会計基準
シンガポール財務報告基準(SFRS(I)s)は、国際財務報告基準(IFRS)と整合しており、SFRS(I)sに基づいて作成された財務諸表は、IFRSに準拠した財務諸表と一致することが保証されています。
そのため、IFRSベースで財務報告を行っているグローバル企業にとっては、大きな影響はないと考えられます。一方、日本本社でJGAAPを適用している場合、シンガポール子会社との会計方針の統一が求められる可能性があります。各社の方針に応じて、監査法人等と相談し適切に調整する必要があります。
※参考:
- Effective for annual period beginning on 1 January 2023, Government of Singapore
・シンガポールにおける税務リスク(PE認定・移転価格税制)
PE認定や移転価格税制は、国際税務における重要な論点であり、高度な専門知識を要する分野です。本稿では主なポイントの概略を示し、詳細な解説は専門家に委ねます。
- PE認定リスク(恒久的施設の認定)
PE(Permanent Establishment、恒久的施設)認定とは、企業が特定の国で事業拠点を持つと認定され、その国で法人税の課税対象となる概念を指します。
例えば、日本企業がシンガポールに駐在員事務所を設置した場合、本来、駐在員事務所は補助的・準備的業務を行う限り法人税の課税対象にはなりません。しかし、実際の業務内容によっては、シンガポールの税務当局からPEとみなされ、シンガポールで法人税の納税義務が生じる可能性があります。
ただし、日本・シンガポール間のPEに関する問題では、シンガポール当局よりも日本の税務当局による指摘が多く見られます。これは、シンガポールの法人税率が日本よりも低いため、日本企業が税負担を軽減する目的でシンガポール法人を活用していると疑われるケースがあるためです。例えば、シンガポールに法人を設立し取引を行っているものの、実際の意思決定がすべて日本本社で行われている場合、日本の税務当局が「実質的に日本本社の活動である」と判断し、PEとして認定されるリスクがあります。
PEと認定されると、日本本社がシンガポール法人の所得についても日本で納税する必要が生じるため、二重課税のリスクが発生します(日星租税条約の適用や外国税額控除の活用により、一定の税負担軽減が可能な場合あり)。このようなリスクを回避するため、PEに認定される可能性がある場合には、早めに税務専門家に相談し、適切な対応を検討することが重要です。
- 移転価格税制の適用
移転価格税制とは、企業グループ内の海外取引が適正な価格(独立企業間価格)で行われているかを税務当局がチェックする制度です。日本企業がシンガポールに子会社を設立し、日本本社と取引を行う際、その価格が市場価格とかけ離れている場合、日本やシンガポールの税務当局から指摘され、追加の課税を受ける可能性があります。
例えば、日本本社がシンガポール子会社に対して、独立企業間価格よりも低い価格で商品を販売し、利益の大半が税率の低いシンガポールで計上されている場合、日本の税務当局は「不適切な価格設定により、日本で計上すべき利益がシンガポールに移転されている」と判断し、課税調整を行う可能性があります。
逆に、日本本社が独立企業間価格よりも高い価格でシンガポール子会社に商品を販売し、シンガポール子会社の利益が過度に圧縮されている場合、シンガポールの税務当局が「本来シンガポールで計上されるべき利益が日本に移転されている」とみなし、課税調整を行う可能性があります。
移転価格が適正でない場合、追加課税やペナルティのリスクが生じます。その対策として、移転価格文書を作成し、取引価格の妥当性を証明することが重要です。また、事前確認制度を活用し、税務当局と事前に取引価格を合意することで、リスクを軽減できます。
なお、移転価格もPEと同様に専門性が高いため、懸念がある場合は早めに税務専門家に相談し、適切な対応を検討することが重要です。
・シンガポール法人税に関する最新情報
- シンガポール2025年予算における税制関連の要点
2025年度予算では、企業の負担軽減、技術革新の推進、労働市場の安定化、資本市場の成長を目的とした税制優遇措置が講じられています。
-
法人税の軽減:2025年度(YA 2025)の法人税に対する50%のリベート(還付)
- 上限:4万ドル(約440万円)
- 最低給付:2千ドル(約22万円)…2024年に最低1名のローカル従業員を雇用する企業が対象
-
賃金支援の税制措置:Progressive Wage Credit Scheme(段階的賃金助成制度)の政府負担割合の引き上げ
- 2025年および2026年に適用率を拡大し、企業の賃金負担を軽減
-
研究開発およびイノベーション関連の税制優遇:イノベーションおよび技術投資の強化
- National Productivity Fund(国の生産性向上基金)への30億ドルの追加投資。新たな税制優遇措置の導入
-
株式市場の発展支援:シンガポールの株式市場活性化および企業の資金調達促進を目的とした税制優遇措置
- シンガポール取引所に上場する新規上場企業への税優遇
※参考:
- Empowering Businesses For Growth And Success, Government of Singapore
- グローバル・ミニマム・タックス(15%ルール)への対応
シンガポールは、OECDおよびG20が推進するグローバル・ミニマム・タックス(GMT)を導入し、最低法人税率15%を確保する新たな税制を2025年1月1日より適用しました。これにより多国籍企業による利益移転を防ぎ、公平で透明性の高い税制環境を維持することを目指します。なお、当該税制の導入により、シンガポールに本社を置くグローバル企業の税負担増加が指摘されています。
概要
- 所得合算ルール(IIR:Income Inclusion Rule)
- シンガポールを本拠とする多国籍企業の子会社が他国で15%未満の法人税を課されている場合、シンガポール本社で差額分の追加課税を実施。
- 国内トップアップ税(DTT:Domestic Top-up Tax)
- シンガポール内の多国籍企業の実効税率が15%を下回る場合、差額を補う国内トップアップ税を適用する
※参考:
- GloBE Rules and Domestic Top-up Tax (“DTT”), Government of Singapore
- Help to be given to guide businesses on corporate tax reform, The Straits Times
・まとめ
本記事では、シンガポールの法人税制度の特徴や、企業が活用できる税制優遇措置、税務リスクについて解説しました。シンガポールの法人税率17%と低く、免税措置や税制優遇制度を活用することで実効税率はさらに低下します。そのため、多くの企業にとって魅力的な税制環境となっています。
一方で、PE(恒久的施設)の認定リスクや移転価格税制への対応など、海外特有の税務リスクを考慮する必要があります。税制優遇の適用条件や税務コンプライアンスを正しく理解し、適切な対応を取ることが、事業の成功には不可欠です。加えて、グローバル・ミニマム・タックス(GMT)の導入などにより、シンガポールでの税負担が変化する可能性もあるため、最新の税制動向を把握し、適切に対応することが重要です。
弊社は、シンガポールに拠点を構えて35年にわたり、中小・中堅企業の東南アジア進出・海外事業の支援を行ってきました。海外ビジネスに関する疑問やお困りごとがあれば、お気軽にご相談ください。
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新しいマーケットでビジネスを創める・広げる・深める・個人を伴走型でデキル化支援
『Vision – 私たちが理想とする世界 -』
もっと自由に(法人・個人)新しいマーケットに挑戦できる世界
『Value – 私たちの強み -』
①伴走者かつ提案者であること
ジブンシゴト(頼まれ・やらされ仕事はしない)をモットーに、事業主人公ではない第三者の私たちだからこそできる提案力
②プロジェクト設計力と管理力
デキル化(ミエル化して終わりではなく)をモットーに、『ゴールは何か』の会話から始めるプロジェクト設計力とその後実現するための管理力
③対応力(幅広いエリアと多様な業種実績700社以上)
設計力・管理力を活かし、現地特派員や協力会社と連携による現地力モットーに、ニッチからポップまで多様な業種の海外進出に対応。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
01:伴走グローバル事業部
海外ビジネス課題を共に考え、目標達成のために共に動くチーム
『Point』
✔︎貴社海外事業部の担当者として伴走
✔︎BtoB・BtoC・飲食店開業など幅広くサポート可能
✔︎各国現地駐在スタッフやパートナー企業と連携が可能
------------------------------------
02:伴走マーケティング事業部
デジタルマーケティング課題を共に考え、目標達成のために共に動くチーム
『Point』
✔︎貴社デジマ事業部の担当者として伴走
✔︎デジマ業務をゼロから運用まで幅広くサポート
✔︎各分野に対応するスタッフやパートナー企業と連携
------------------------------------
03:稟議書作成サポート
海外ビジネスのはじめの一歩を作る、稟議書策定サポート
『Point』
✔︎あらゆる角度から、フィジビリティ・スタディ(実現可能性)を調査・設計
↳過去類似事例(失敗・成功どちらも)から判断材料を調査
↳当社現地スタッフやパートナー企業による調査
↳現地特定の有識者を探索し、インタビュー調査
------------------------------------
04:スポットサポート
海外ビジネス・デジタルマーケティング課題を部分的に解決
『施策と料金イメージ(事例で多い価格帯となります)』
✔︎市場調査:50万円〜80万円〜120万円
✔︎現地視察:国・期間・内容により大きく変動
✔︎会社設立:国・形態・内容により大きく変動
✔︎現地企業マッチング:30万円〜50万円〜80万円〜120万円
✔︎プロモーションサポート:国・形態・内容により大きく変動
✔︎ECサイト制作:80万円〜150万円
✔︎ECサイト運用:20万円〜40万円(月額)
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ABCD株式会社
私たちは貴社のセカイビジネス(主に欧米+アジア進出)の共創パートナーです。
私たちABCDは、貴社の海外事業部としてセカイ進出を共創するパートナーです。
これまでの実績は700社を越え、さまざまな業種業態の企業の進出支援を行っております。
■私たちは...
*企業のセカイビジネスの開拓・拡張・成長をミッションとして各分野から集まった組織
*成功のノウハウだけでなく、失敗におけるノウハウも貴社支援に活用
*セカイビジネスを""A""(立ち上げ)から事業推進(""toZ""/プロジェクトマネジメント)まで伴走
*セカイ各国・各分野の現地協力社&6万人を超える現地特派員により、セカイビジネスを共創
■3つのサポート領域
①BtoB販路開拓サポート
セカイ各国の現地企業との取引創出を目的としたサポート。
現地企業の探索条件の設計から着手し、企業探索・アポイント取得・商談〜交渉〜契約までワンストップで対応。
②BtoC販路開拓サポート
セカイ各国の消費者に直接販〜集客することを目的としたサポート。
販売はECモール・越境ECサイトを中心とし、集客はSNS活用から各種プロモーション(インフルエンサーマーケティング・広告運用など)海外でのブランディングを含めたマーケティング戦略全般対応。
③セカイで法人・店舗開業
セカイ各国現地に店舗開業を包括的にサポートすることを目的としたサポート。
現地法人設立(M&A含む)や店舗開業に伴う不動産(内装業者)探索や人材探索、各種手続き・ビザ申請等、ワンストップで対応。
■サポート対象エリア
基本的にはセカイ各国の支援に対応しておりますが、
これまでの多く携わってきたエリアは、アメリカ・ヨーロッパ・東南アジア・東アジアです。
■これまでの支援で最も多かったご相談
- 海外進出って何をすればよいの?
- 初めての海外進出をどのように進めれば不安、手伝って欲しい
- どこの国が最適なのか、一緒に考えて欲しい
- 進出検討中の国や市場を調査・分析し、自社との相性が知りたい
- 現地競合企業の情報・動向が知りたい
- どんな売り方が最適か、アドバイスが欲しい
- 海外進出事業計画策定を手伝って欲しい
- 事業戦略・マーケティング設計がしたい
- 食品・コスメ・医薬品に必要なFDA申請を手伝って欲しい
- 海外で販路開拓・拡張がしたい
- 海外現地企業と取引がしたい
- 海外現地法人設立(ビザ申請)をサポートして欲しい
- 海外でプロモーションがしたい
- 越境EC(自社サイト・モール)販路を広げたい・深めたい
- 海外のデジタルマーケティング戦略をサポートして欲しい
- 海外向けのウェブサイト(LP)をつくってほしい
- 海外向けのECサイトをつくってほしい
- 海外のSNS・ECの運用を手伝って欲しい
- すでに活動中の現地法人の悩み解決を手伝って欲しい
- 海外で店舗開業(飲食店含む)を総合サポートして欲しい
■主要施策
①BtoB販路開拓サポート
- 海外販路開拓・現地企業マッチングサポート
- 市場調査/現地視察
- 事業計画設計
- 海外ビジネスマッチング(現地企業探索サポート)
- 海外人材 探索・手配サポート
- 翻訳・通訳サポート
- 手続き・申請(FDA申請含む)サポート
- 海外税務/法務/労務/人事 サポート
- 輸出入/貿易/通関 サポート
- 海外販路開拓・現地企業マッチングサポート
- 各種市場調査/分析
↳企業信用調査
↳競合調査/分析
↳法規制調査
↳有識者調査・インタビュー
↳消費者調査・インタビュー
↳現地テストマーケティング
↳ウェブ調査/分析
②BtoC販路開拓サポート
- EC/越境EC運用代行サポート
- 各種サイト運用代行
- SNS運用代行サポート
- サイト(EC/多言語/LP)制作
- コンテンツ(画像・動画)制作デジタルマーケティングサポート
- プロモーションサポート
- SEO強化サポート
- Webプロモーション
↳インフルエンサープロモーション
↳現地メディアプロモーション
↳広告運用(リスティング広告・SNS広告など)
③法人・店舗開業
- グローバル飲食店開業サポート
- 現地法人設立サポート
- 現地視察サポート
- ビザ申請手続き
- 現地人材探索
- MAサポート
- クラウドファンティングサポート -
Global Partners Consulting Pte. Ltd.
東南アジア各国への事業進出は予想以上に手ごわい? GPCグループは東南アジア事業進出における 最も役に立つ存在であり続けます。
ASEAN進出支援に特化した独立系コンサルティングファーム(法人設立、会計・税務、企業買収、AI開発等)
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進出時の資本構成、事業ライセンスの取得、銀行取引、事業拡大(M&Aや販売支援)、税務対策など一筋縄でいかないのが東南アジア諸国への進出実務です。
豊富な経験と現地での最先端の知識・情報・コネクションを元に、東南アジア圏に特化した経営コンサルティングサービスを提供し、旬なクライアント企業の経営課題に全力で取り組んで参ります。
提供サービス:
■海外市場調査業務
海外市場調査・進出戦略策定支援
販売代理店&パートナー発掘 (B2B)
取引先信用調査 (シンガポール、ベトナム、インドネシア)
■経営コンサルティング(進出済企業様向け)
各種取引に伴う国際税務アドバイス・意見書
契約書Review(及び必要であればパートナー交渉業務)
現地人事・労務コンサルティング
■M&Aアドバイザリー
ASEAN M&A”独占”「売」案件の情報提供
M&A Daily News運営
■法人設立・会計サービス(シンガポールのみ)
現地法人設立
現地法人運営支援業務(記帳代行、税務、監査、給与計算、銀行支払支援)
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株式会社スタンデージ
貴社の貿易をすべて丸投げ
スタンデージはブロックチェーンとステーブルコインを活用した新貿易決済システムをはじめ、アナログでレガシーな貿易インフラを次世代のステージに引き上げる貿易DXプロダクトの開発・運営に取り組んでおり、国内の貿易プレイヤーを増やし市場を拡大する一環として、海外展開未経験の企業の支援に取り組んでいます。
商材は食品、日本酒、医療機器・医薬品、サプリメント、教材・教育玩具、素材、農業資材など多岐にわたります。